インターネット 法情報学入門


岡 村 久 道

(初稿 1998/06/14)

最終更新日 03/04/17

(C) copyright Hisamichi Okamura,1998-2001, All rights reserved.


 

INDEX

 

1 はじめに

2 立法プロセス−法律ができるまで

3 法律の検索

4 判例の検索

5 米国法の検索


1 はじめに

 

 人からよく「司法試験に通る際に、六法全書全部をどのようにして暗記できたのか」という意味の質問を受けることがある。

 法律の数は極めて多く、さらに国家間の条約や、地方自治体が制定する条例、そして行政機関が定めた政令クラスを含めると、いわゆる「星の数」ほど存在していることになる。

 筆者はもとより、現在どのような法令が日本にあるのかについて丸暗記している法律家など、ひとりも存在していないというのが実状であろう。換言すると、わが国には、プロの法律家ですら聞いたこともないような法律が数多く存在しているのである。これを暗記しようと試みた者も筆者の知る限りではひとりもいない。もっとも、完全に暗記したからといって、司法試験に合格できたり良い法律家になれるわけでもないが。

 次に、法律や政令にしても、条例にしても、ある程度の汎用性を持たせるために、抽象的な文言が使用されているのが普通である。したがって、具体的な法律解釈は、先例となる判例つまり裁判所の判断により補わざるを得ない点が多い。ところが、最高裁判所以外の高等裁判所や地方裁判所、簡易裁判所といった下級審の判例を含めると、これまた膨大な数になる。

 さらに、行政機関の通達というものがある。例えば不動産や法人に関する登記を担当している法務局ひとつをみても、法務省民事局から数多くの通達が出され、これに従って登記の申請実務などが実際に運用されている。

 これらを含めると、法律に関する情報量は、際限のない量となって、プロの法律家ですら気が遠くなってしまう。ただ、プロの法律家である以上、かかる膨大な法情報を、必要に応じてリサーチする能力だけは有していなければ失格だということになる。

 ところが、法律は国民一般に対し、「法の不知はこれをゆるさず」という原則のもとに運用されている。

 もちろん、違法な行為をしておいて「知らなかった」という安直な言い訳を許すわけにはいかないというのは理解できる。

 しかし、プロの法律家ですら調査しなければ分からないことが多すぎるにもかかわらず、もし国民に対し、「法律を知らないと言っても許さない」と断言してしまっている態度だけをとっているのであれば、それなりの批判を受けても仕方あるまい。

 何が問題かと考えると、国民が法律や判例に簡単にアクセスできるようなシステムが整備されていないという点が、最大の問題なのである。

 たしかに、現行法規や判例をすべて集めた書籍もあるが、これだけで本棚が何列も占領されてしまう。法律家でない人にとっては、入手しようとしても経済的に無理がある。法律家にとっても、これをすべて揃えるのは極めて重い負担となる。それに、書籍の場合には必ずしもリアルタイムな情報であるとはいえない。

 わが国は、明治以来、ヨーロッパ大陸の法律を継受した「法治国家」をめざし、さらに第二次世界大戦後は英米法系の「法の支配」を憲法理念としてきた。したがって、法制度の公開は、国や自治体の情報公開という潮流にとっても不可欠のものである。

 今日、米国では、インターネット上で判例や法律にアクセスすることができる。成立前の法案段階ですら参照して立法動向を探ることが可能である。つまり、インターネットは法情報にとって、限りない可能性を有している。

 わが国でも、インターネット上で、徐々にではあるが、法律情報が公開されるようになってきた。当初は、心ある法律研究者たちや民間による「草の根」的な情報発信であったが、その後次第に最高裁判所や官公庁のウェブ上にも、法律情報が掲載されるようになってきている(このような経緯であるにもかかわらず法律系サイトのリンク集を見ても、官公庁偏重のものが多いのは非常に嘆かわしい現象である)。筆者が 「法律とサイバースペース関係リソース集」を公表したのも、このような動向の一助にでもなればと考えたからである。

 現時点で、わが国のインターネット上の法律情報が十分なものであるのかと聞かれると、甚だ心許ないという状況である。現在では、立法資料等の文字情報はパソコンかワープロで入力されているはずであるから、HTML化は容易であり、もっと公開されて良いはずであろう。

 しかし、今後への期待を込めつつ、今の時点で可能な法律情報へのアクセスについて説明を加えることにする。

 



2 立法プロセス−法律ができるまで

 

2−1 立法プロセスの概説


 狭い意味の法律は、国会で可決されることにより成立し、天皇が公布する。

 国会への法律案の提出は、国会議員の手ですることができ、これを議員立法という。

 米国では議員立法が通常の姿であるが、日本では、各関係省庁の官僚により原案が作成され内閣により国会に提出されるのが通常である。

 このような内閣提出の法律案に関する立法プロセスは次のとおりである。

 

(1) 各関係省庁による原案の作成

(2) 内閣法制局における審査

(3) 国会提出のための閣議決定

(4) 国会における審議

(5) 法律の成立

 

 これらの立法プロセスについては、内閣法制局のウェブサイトに「法律ができるまで」というコンテンツが掲載されているので、これを参照のこと。

 

2−2 各関係省庁による原案の作成

 内閣提出の法律案に関する原案作成は、前述のとおり各関係省庁(主管省庁)の官僚によるというのが現状である。

 関係省庁では、新法の制定や既存の法律の改廃の方針を決定した後、法律案の第一次案を作成し、関係省庁、与党との意見調整等を行い、場合によっては審議会の諮問や意見聴取等を実施する。その後、法文化作業を実施して法律案の原案を作成する。

 首相官邸ウェブサイトの「官公庁Web Server」、総務省行政管理局ウェブ「各省庁のホームページ」には、各官公庁のウェブサイトの一覧表が置かれており、ここからリンクをたどることによって、各省庁が管轄する審議会の動向等をリサーチすることができる。

 特定のテーマについて官公庁のウェブサーバに掲載された情報を検索したい場合は、「官公庁ホームページ検索」を活用することができる。

 最近では、政策決定の際に、各官公庁がウェブ上で一般市民からのパブリック・コメントを募集するという方法も試みられている。

 たとえば次のものがある。

 経済産業省のパブリック・コメント募集ページ

 

2−3 内閣法制局における審査と国会提出のための閣議決定

 主管官庁が、作成した原案を、内閣総理大臣宛に閣議請議案として送付する。

 この段階で、内閣法制局が予備審査を行う。この審査終了後、主任の国務大臣は内閣総理大臣に対し国会提出について閣議請議手続がなされ、内閣官房が内閣法制局に同請議案を送付する。そして、内閣法制局が最終的な審査を行って、内閣官房に回付する。閣議では、内閣法制局長官が概要を説明し、異議なく閣議決定された場合には、内閣総理大臣は法律案を国会に提出する。

 内閣法制局のウェブサイトに掲載された「最近の法律・条約(件名)」では、国会への内閣提出法律案及び提出条約の件名並びに最近公布された法律及び条約の件名を紹介しており、内閣提出法律案の提出理由も掲載されている。

 また、「毎週の閣議案件」(首相官邸)というページもある。

 

 

2−4 国会における審議

 インターネット上で、衆議院及び参議院のウェブサイトが公開されている。

 両院とも、案内のほか、議事日程、議事経過、本会議録などが掲載されている。

 一般的な議案の審議プロセスについての詳細は、次を参照。

  参議院の「法律のできるまで」

  衆議院の「議案の審議」

 両院のコンテンツのうち、議事日程および議事経過は衆参議院公報からの転載である。

 このような国会会議録については、国立国会図書館が運営する「国会会議録検索システム」で検索することができる。

 他にも、第一法規出版のように、国会における法案審議状況及び法案概要を紹介しているページもある。

 法案の内容については、

衆議院ホームページの「議案の一覧」に法案が掲載されている。

「参議院法制局ホームページ」で、「参法」、つまり、参議院議員提出の法案を見ることができる。

 なお、ウェブサイト上で、国会中継を見ることもできる。

衆議院TV

参議院インターネット審議中継

 

2−5 法律の成立

 法律案は、原則として衆参両院で可決されたときに法律として成立する。

 成立した法律は、一般に周知させる目的で、国民が知ることのできる状態に置く必要があり、これを「公布」という。

 議院の議長から内閣を経由して奏上された日より30日以内に公布されなければならないことになっている。

 具体的には、まず公布のための閣議決定を行い、その後に官報に掲載される。

 首相官邸サイトの中にある官報のサイトでは、公布された法律については、官報のグラフィックスが掲載されている。ダウンロードに時間を要し残念な状態であるからテキスト版の掲載を望みたい。また、内閣法制局のウェブサイトにも、最近公布された法律及び条約の件名は紹介されているが、その法文については掲載されていない。

 官報発行元の財務省印刷局サイトでも「インターネット版官報」の名の下に、以前から「試験配信」されてきたが、プリントが一切禁止であったり、掲載後1週間で消滅するなど、利用条件が極度に限定されている。一旦国費をかけて作成されたものが短期間で利用不能となるのは税金の無駄遣いである。

 衆議院ホームページのにある、「制定法律の一覧」で閲覧することができる。

「参議院法制局ホームページ」でも、「制定法」、つまり成立した法律を見ることができる。

 その法律についての施行の日が決められている。

 以上の流れにつき、官報のサイトに掲載されている「法律の公布までの手続き」という表を参照。

 


 

3 法律の検索

 かくして成立した法律は、どのようにしてインターネット上で検索すればよいのか。

 総務省行政管理局ウェブに「法令データ提供システム」が設けられている。これを利用することで膨大な現行法令が、いつでもネットを使って無料で閲覧可能になった。

 関連するウェブについては、当ホームページに掲載された「法律とサイバースペース関係リソース集(LINK)」の中の「法令関係」という項目をご覧頂きたいが、ここでは掲載主体という別の角度から概説する。

 

3−1 官公庁

 官公庁によっては、自身が所管する法律を掲載しているサイトもある。

 その具体例は、次のとおりである。

 

サイト名 ページ名 特 徴
郵政事業庁 郵政行政六法 郵政行政関係の法令集。放送法 、有線テレビジョン法、電気通信事業法などを掲載。
環境省 環境法令データベース 環境法令に限定されているにもかかわらず収録数は膨大であり、条例や条約に至るまでサポートしており、検索も可能。
公正取引委員会 法令・ガイドライン 法令自体にとどまらず、公正取引委員会のガイドラインの一部も掲載。

 

 

3−2 特殊法人・関連団体

 官公庁自体ではないが、各官公庁系の特殊法人や関連団体が、関係する法律を掲載しているケースもある。
具体例は次のとおりである。

 

(1) (社)著作権情報センター「著作権関係法令集データベース」は充実しており秀逸である。

(2) 国立環境研究所環境情報センター「環境情報ガイド」

(3) (財)省エネルギーセンター「省エネルギー法令集」

法文自体が掲載されているわけではなく、あくまでも説明が載っているものであるが、「環境関連法令解説の索引」「環境関連条約解説の索引」「環境条例情報の索引」「環境基本用語解説の索引」などがあり、その収録数は膨大である。

 

3−3 大学及び研究者のサイト

 次のコンテンツは、インターネット上に散在する法文テキストを集めたリンク集として有名である。

 

サイト名 ページ名 特 徴
金沢大学法学部 日本の法律のページ  
富山県立大学・河原一敏氏 日本の法令 条文集  
愛知大学法学部インターネットサーバー管理会 愛大六法  

 

 

3−4 民間サイト

 大学及び研究者のサイトと並んで充実しているのが民間サイトであり、特に有名なものは次のとおりである。

(1) 「法 庫」

 これはリンク集ではなく、すべて自家製の法令コンテンツである。超有名法令サイトである。収録数ではわが国の最高クラスであり、日々更新されている。準用条文に丁寧なリンクが張られており、50音別索引、分野別索引、公布年順索引による検索が可能なである。

(2) 「goo 法律サーチ [ビジネス六法]」

(3) 「建築関連法規集」

 

 


4 判例の検索

 

4−1 はじめに

 冒頭に述べたように、法律や政令にしても、条例にしても、ある程度の汎用性を持たせるために、抽象的な文言が使用されているのが普通である。したがって、具体的な法律解釈は、先例となる判例つまり裁判所の判断により補わざるを得ない点が多い。

 

4−2 最高裁判例

 わが国の最高裁判例は次の箇所から参照できるが、すべてを網羅した無料のものはウェブ上には存在しない。

 

サイト名

ページ名

特 徴

最高裁判所 最近の最高裁判決 最高裁自身が掲載する最高裁の判決。平成八年(あ)第六〇〇号平成九年一月三〇日第一小法廷判決以降を収録。
最高裁判所 最高裁の著名裁判 最高裁自身が掲載する最高裁の判決。
最高裁判所 知的財産権判決速報 「東京高等裁判所,大阪高等裁判所,東京地方裁判所,大阪地方裁判所及び名古屋地方裁判所を中心に知的財産権関係民事・行政事件の判決を「速報」として提供するもの」(最高裁判所によるコメント)
法律家ゴマ 最新の最高裁判例の紹介 裁判所時報掲載判例を中心に平成7年9月5日以降のものを収録。
ILC 最高裁ウォッチャー 「法廷別判例一覧」「裁判官別判例一覧」「補足・反対意見等、裁判官別判例一覧」など最高裁判例を収録。

 

 

4−3 その他の判例サイト

 個別の領域に関する判例集。下級審判例も搭載されている。

 

サイト名

ページ名

特 徴

園田寿先生(関西大学) サイバーポルノに関する日本の裁判例 サイバーポルノに関するわが国のほとんどの判例が判例集未搭載のものを含め掲載されている。
夏井高人先生(明治大学) コンピュータ関連判例の紹介(日本) わが国の判例集に搭載されたほとんどのコンピュータ判例が搭載されている。
佐分晴夫先生(名古屋大学)・田中則夫先生(龍谷大学) 日本の国際法判例 「日本の国際法判例」研究会が「国際法外交雑誌」(国際法学会発行)に掲載してきた、資料「日本の国際法判例」を試験的に公開したもの。
日本弁護士連合会 国際人権(自由権)規約を用いた最近の参考となる判例 国際人権(自由権)規約関連のわが国の判例を集めたもの。
上野達弘先生(成城大学) 著作権法学情報 判例 わが国の著作権法関係の判例集。

 


5 米国法の検索

 

5−1 立法過程

 THOMAS(米連邦議会図書館)にある、HOW OUR LAWS ARE MADE が分かりやすい。

 

5−2 連邦議会

 次のとおりである。

U.S. Senate (米国連邦議会上院)

U.S. House of Representatives (米国連邦議会下院)

 

5−3 法 案

 THOMAS(米連邦議会図書館)のサイトのトップページの左側に掲載された Search by Bill Number に法案の番号を打ち込めば検索できる。

 また、議員立法が中心であるから、連邦議会のサイトにある議員のページを見れば、法案に関する提案者たる議員の意見を知ることができる。

 下記ページからリンクが張られている。

米国連邦議会上院の議員リスト

米国連邦議会下院の議員リスト

 

5−4 憲 法

 次のページを参照。

The Constitution of the United States

 

5−5 法 令

 次のページから検索。

 合衆国連邦法典(U.S.Code)

UNITED STATES CODE (コーネル大学法情報センター)

米国連邦議会下院

 連邦現行行政立法(Code of Federal Regulation)

米国連邦議会下院

 

5−6 判例

 連邦最高裁

The LII and Hermes

 連邦高等裁判所

The Federal Court Locator

 

5−7 米国法関係のウェブに関するリンク・リスト

東北大学法学部アメリカ法のページ

大阪大学法学部田中規久雄先生によるインターネット法情報入門


(続く)


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