「法律論文における出典の表記方法について」

岡 村 久 道

(初稿 1998/09/07)

(C) copyright Hisamichi Okamura,1998, All rights reserved.


 

I はじめに

 

法律論文においては、他の論文を引用する機会が多い。

ところで、著作権法32条1項は、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定している。

同項にいう「引用」にあたる場合には、出所を明示することによって(48条)、著作者の同意がなくても他人の著作物を利用することができる。

これを、引用をする際における出所明示義務という。

この出所明示義務は、著作権法上の義務であるにとどまらず、法律学も他の学問領域と同様、先人の尊い遺業の上に成り立っているものである以上、法学者としての倫理上の義務でもある。

ところが、法律分野における出所明示方法については何を参照して良いのか必ずしも理解している人ばかりではない。

かかる出所明示の方法については、法律編集者懇話会が、1993年8月に「法律文献等の出典の表示方法」という文書を公表している。これは、同会が1989年に素案を発表し、法学関係の各学会等で配布して数多くの意見を聴取し、それらの意見を参考にして第二次改訂案を作成し、その後も、数回にわたり追補を行っている。

前記文書は従わなければ適法な引用とはならないという意味のものではないが、この法律編集者懇話会は、法律関係の雑誌・書籍の出版に携わる 27 社の編集者で組織されているので、前記文書はデファクトスタンダードとしての地位を占めており、したがって、同項における「公正な慣行」を考慮する上で重要な要素となっている(但し筆者は必ずしもこれに従っていない)。

そこで本稿は前記文書に従い表記方法について説明を加えるものである。

 


II 文献の表示について

 

 1 雑誌論文の表示について

まず前記文書は、雑誌論文の表示について、次の形式で表示すべきものとしている。

執筆者名「論文名」雑誌名 巻 号 頁(発行年)または、巻 号(発行年)頁

例をあげれば、

夏井高人「電子技術の進歩と司法の将来(上)」判例タイムズ711号42頁(1990年)

というスタイルになる。

前記文書には、次の「注」が付されている。

(1)「当該論文のサブタイトルは、できるかぎり表示することが望ましい。」

(2)「頁は『ページ』ではなく、『頁』と表示する。当該巻号の頁で表示するのを原則とするが、合本にした場合等で通し番号があるときは、それを表示してもよい。」

(3)「発行年は入れるものとする。和暦か西暦かは共同執筆等の場合を除き、著者の意向による。」

(4)「巻・号・頁は、−(ダッシュ)または・(ナカグロ)で略してもよい。たとえば、『国家73−7=8−1』」

(5)「再収録された論文集があれば、『所収』を表示し、さらに頁を入れることが望ましい。その場合、論文集等の発行所名は、できるかぎり入れるものとする。」

(6)「定期刊行物の略称は、おおむね『法律時報文献月報』の文献略称方式(12頁以下)によった。」

前記(5)の具体例は、次のとおりである。

夏井高人「電子技術の進歩と司法の将来(上)」判例タイムズ711号42頁以下(1990年)〔「裁判実務とコンピュータ−法と技術の調和をめざして−」所収、42頁以下(日本評論社、1997年)〕

 

 2 単行本−単独著書について

次に、前記文書は、単行本のうちの単独著書の表示については、次の形式で表示するものとしている。

執筆者名『書名』頁(発行所、版表示、発行年)または(発行所、版表示、発行年)頁

これについても具体例をあげれば、

夏井高人『ネットワーク社会の文化と法』42頁(日本評論社、1997年)

または

夏井高人『ネットワーク社会の文化と法』(日本評論社、1997年)42頁

というスタイルになる。

この点についても、前記文書には、次の「注」が付されている。

(1)「書名は、原則として『 』でくくるものとするが、・(ナカグロ)でもよい。」

(2)「シリーズ名、サブタイトルは必要に応じて入れる。」

(3)「発行所はできるかぎり入れるものとする。」

(4)「発行年は必ず入れる。」

(5)「書名に改訂版、新版等が表示されている場合は書名の一部として表示し、書名にそれぞれが表示されていない場合は、( )内に入れる。ただし、版表示については、初版本については入れないが、改訂版、第2版、第3版等は、必ず入れる」

(6)「(発行所、版表示、発行年)の順序については、(発行年、版表示、発行所)でもよい。」

 

 3 単行本−共著書について

  (a)一般

次のとおりとなる。

執筆者名「論文名」共著者名『書名』頁(発行所、発行年)

または

共著者名『書名』頁〔執筆者名〕(発行所、発行年)

 

  (b)講座もの

次の表記をする。

執筆者名「論文名」編者名『書名』頁(発行所、発行年)

やはり具体例をあげれば、

岡村久道「代金決済と暗号技術」インターネット弁護士協議会編『インターネット法律叢書2−インターネットビジネスの法律ガイダンス』112頁(毎日コミュニケーションズ、1997)

 

  (c)コンメンタール

編者名『書名』頁〔執筆者名〕(発行所、版表示、発行年)

または

執筆者名『書名』頁〔編者名〕(発行所、版表示、発行年)

 

  (d)記念論文集

執筆者名「論文名」献呈名『書名』頁(発行所、発行年)

具体例をあげれば、

岡村久道「自動車保険における搭乗者傷害保険をめぐる判例理論」小野幸二教授還暦記念論集『21世紀の民法』182頁(法学書院、1996)

 

 4 翻訳書について

次のとおりとなる。

原著者名(訳者名)『書名』頁(発行所、発行年)

例示すると、

ワインスティン,D.A(山本隆司 訳)『アメリカ著作権法』(商事法務研究会、1990)

 

 5 判例研究−雑誌の場合

次の形式で表示すべきものとしている。

執筆者名「判批」雑誌名 巻 号 頁(発行年)

または

執筆者名「判批」雑誌名 巻 号(発行年)頁

例をあげれば、

岡村久道「判批」別冊ジュリスト140号200頁(1996)

または

岡村久道「判批」別冊ジュリスト140号(1996)200頁


 6 判例研究−単行本の場合

次のとおりとなる。

執筆者名『書名』事件または、頁(発行所、発行年)

例として、

鈴木竹雄・判例民事法昭41年度18事件評釈(有斐閣、昭52)


 7 座談会等

次の表記をする。

出席者ほか「テーマ」雑誌名(書名) 巻 号 頁〔○○発言〕(発行年)または巻 号(発行年) 頁〔○○発言〕

 




III 判例、先例、通達の表示について

 

 1 判例について

前記文書は次のように例示する。

最判昭和58年10月7日民集37巻8号1282頁〔1285頁〕

東京地八王子支判昭37・11・28下民13・11・2395

大判大12・4・30刑集2巻378頁

また、次のような「注」が付けられている。

(1)「頁は原則として、その判例が掲載されている初出の頁を表示する。」

(2)「特に該当部分を引用する場合は、その頁を〔 〕(キッコウ)で囲むか、読点(、)を付し連記して表示する。」

(3)「引用頁の表示は、その判例集の通しの頁とする。」

(4)「最高裁の大法廷判決については、最大判と表示し、小法廷判決については原則として最判と表示する。なお、旧大審院の連合部判決については、大連判と表示し、その他は大判と表示する。また、地名はフルネームで表示する。」

(5)「年・月・日及び巻・号・頁は・(ナカグロ)で表記してもよい。」

(6)「たて組みの場合には、原則として、漢数字を用いるが、年・月・日はアラビア数字で表記してもよい。」


 2 先例、通達について

これについても前記文書には次のような例示があげられている。

 昭41・6・8民甲1213号民事局長回答


IV おわりに

 

以上のとおり説明を加えてきたが、ウェブでの論文掲載が増加するにつれて、その出典の表示方法も問題となり、< > でURLを囲むという表記方法も提唱されている。

このように、表記方法も時代により移り変わりうるものである。

以 上