6 ハイテク犯罪とネットワーク犯罪


以上のとおり、わが国の政府機関では、おおむねサミットの用語を受けて「ハイテク犯罪」という言葉が使用されることが一般的である。

この言葉は、前述のとおり「コンピュータ技術及び電気通信技術を悪用した犯罪」を意味しているので、ネットワークに関連する犯罪よりも広い概念である。しかし次第にインターネットをはじめとしたネットワーク犯罪に重点が置かれてきていることに異論はないものと思われる。

すなわち、まず1996年6月のリヨン・サミット議長声明では、世界規模の通信ネットワークによって生じた倫理面・犯罪面の問題を検討する用意があると述べられていたことは前述した。

第2に、1997年6月のデンヴァー・サミットのコミュニケでは、前述のとおり「コンピュータ及び電気通信技術に対して国境を越えて介入するようなハイテク犯罪者」などへの言及が見られ、これを受けた同年12月のG8司法・内務閣僚級会合コミュニケでは、「ハイテク犯罪について、我々は、コンピュータ及び電気通信の新技術により、地球規模での通信がかってないほどに可能となっていることをまず認識しなければならない。無線通信を含むこれら技術への国民の依存度が増大するにつれ、ハイテク犯罪者によるこれら技術の悪用は、公共の安全にかってない脅威を与える。」とする認識が示されており、そこではクラッキングが主たる対象として想定されているように思われる。

第3に、翌1998年5月のバーミンガム・サミットのコミュニュケの21番では、前に引用した部分に続き、「我々は、適切なプライバシーの保護を維持しつつ、証拠として電子データを取得し、提示し、保存するための法的な枠組みについて、及びこれらの犯罪の証拠を国際的なパートナーと共有することについて合意するため、産業界との緊密な協力を呼びかける。これは、インターネット及び他の新たな技術の悪用を含む広範な種類の犯罪と闘うことに資する。」として、インターネットへの明文での言及が見られる。

第4に、同年12月に閣僚バーチャル会議が開催され前記行動計画のフォローアップが行われた後、1999年10月にはモスクワで国際組織犯罪対策G8閣僚級会合が開催され、8か国間における捜査司法共助を促進する措置などが合意されたが、その際のコミュニケでも、ハイテク犯罪について、「インターネットや他の新しい技術の使用が増加するに伴い、より多くの犯罪者に電話回線やデータ回線を用いて、遠隔的に犯罪を敢行する機会が与えられている。現時点でも、不正な意図を帯びたプログラムコードや有害な通信(例えば児童ポルノ)が異なった国々にあるいくつかの電気通信事業者を経由して伝達され得る。そして、銀行や金融などの社会基盤(インフラストラクチャー)は一層高度にネットワーク化され、したがって遠隔地からのサイバー・アタックに対して脆弱なものとなっている。我々は今日、この国境を越えた犯罪に対する我々の共同行動に更なる個人的な関心を払い、また方向付けを与えることを目的に一堂に会したものである。」として、ネットを中心とする現状認識が示されている(*法務省の仮訳による)。

 

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