電子ネットワークの知的所有権法 

F.A.Q. (Frequently Asked Questions)

法律問題は、微妙な事実関係の相違により、全く結論が異なることになる場合が多いというのが実状です。したがって、本ページは特定の具体的問題に対し責任ある回答を提示するという性質のものでないことを予め御了承下さい。実際に紛争になっていたり、もしくはそうなる可能性が少しでもある事案や、契約書の作成等についての具体的問題は、必ず現実空間において専門家に相談を受けていただくことをお勧めします。

岡村 久道

(c) copyright Hisamichi Okamura, 1998, All Rights Reserved.


Q.雑誌の表紙の著作権

当社は出版社ですが、当社が発行した雑誌の表紙をスキャナで取り込んでホームページに掲載したいと考えています。

 装幀に関与したデザイナー、イラストレーター、カメラマン、タイトルを考えたコピーライターなどの関係者との関係で、著作権処理はどのように考えたらよいのでしょうか。



A.

 著作権は、創作者が単に創作するだけで取得します。

 したがって、例えば、書籍の表紙に写真が使われている場合は、写真についてはカメラマンが著作者となります。他の著作部分についても同様です。

 ところで、著作権は、まず最初に著作者に帰属することになりますが、著作権(厳密には著作財産権)は使用許諾や譲渡の対象となります。

 ところが、書籍の表紙を作成する場合、出版社は、実務的には、わざわざ著作者との間で譲渡契約を締結していることはまれです。

 むしろ、ご存じのとおり、コンテンツ作成につき、カメラマンなどとの間で何ら契約書すら交わされていないのが普通です。

 しかし、少なくとも出版に関しては、著作者から、黙示の使用許諾を受けているものと考えられます。

 使用許諾の範囲については、書籍は販売を当然に予定しています。

 したがって、販売に要する販促活動への使用に関しても、使用許諾の範囲に含まれると考えることができるのが通常です。

 以上の検討を前提に、「書籍の表紙をスキャナで取り込んでホームページに使用する場合」を考えます。

 厳密に理論的に考えれば、事前にホームページでも使用することを伝えた上で作成を依頼している場合や、貴社がホームページで販促をしていることをそれらの関係者が知っていて当然の前提にしているのであれば、使用許諾の範囲に入ると思いますが、そうでない場合であれば、使用許諾の範囲外ということになりそうです。

 もっとも、現実には、「力関係」上、出版社の方が強いのが一般的ですので、一方的にホームページに使用しても、その善し悪しは別として、問題になることは少ないのが実状でしょう (ただし、筆者はこれを憂うべき現実だと考えていますが・・・)。

 これに対し、より安全ベースで行きたいのであれば、カメラマンなどに声を掛けて了承をもらっておくことになります。

 今後、書籍などについては、マルチメディア・コンテンツとしてネット上で利用したり、CDロムでの再出版などが構想されるような機会は、ますます増加するものと思われます。

 前述のような、出版社や広告代理店の、契約書すら交わさないという、ある意味ではルーズな処理が、その「手かせ足かせ」にならなければいいと思いますので、私としては、少なくとも、発注の際に著作権の帰属を明記したり、制作費に関する領収証等の書類に著作権の帰属程度は明記しておくように指導しています。

 

設問のページに戻る


Q.1998年1月1日施行の著作権法改正

1998年の1月1日から、わが国の改正著作権法が施行されたと聞きましたが、どのような点が変わったのですか。


A.

 まず、改正著作権法の条項そのものについては、JASRAC(日本音楽著作権協会)のウェブに「関連資料」として掲載されていますので、ご参照下さい。

 今回の改正は、WIPOが1996年12月に「WIPO著作権条約」及び「WIPO実演・レコード条約」を採択し、これに基づいて国内法を整備するためにおこなわれたものであり、1997年6月に法改正がおこなわれました。

 主として、インターネットに対処するための条約及び法改正であると言うことができるでしょう。

 改正の第1点は、著作者の「公衆送信権」の創設です。

 わが国では、既に1986年の改正により、世界に先駆け、リクエストを受けて行う送信に係る著作者の権利を創設しました。これが「有線送信権」です。

 これに対し、「WIPO著作権条約」では「公衆への伝達権」(8 条)という名前の権利が認められることになりました。

 この両者を比較すると、

(1) わが国の「有線送信権」では法文の字句どおり「有線」に限られ、「無線」によるインタラクティブ送信が含まれていないのに対し、WIPO著作権条約では「無線」をも保護の対象とされている。

(2) わが国の「有線送信権」では、対象となる行為は「送信行為」自体に限定されていたのに対し、WIPO著作権条約では「送信行為」に限らず、その前段階である「公衆に提示される状態に置くこと」を含めて、より広く保護の対象としている。

等の相違点がありました。

 前記(1)の点については、衛星インターネット通信などが計画されている現在の状況を考えると、保護の対象を「有線」に限定すべき合理的な理由はありません。

 次に、前記(2)の点については、対象となる行為を「送信行為」自体に限定した場合、これに対する差止請求はともかくとしても、まだ誰もアクセスしていない段階では損害賠償請求権が発生しないことになりかねません。

 そこで、WIPO著作権条約に基づき、「有線」に限らず「無線」についても保護の対象とするとともに、「送信行為」だけでなく、その前段階である「公衆に提示される状態に置くこと」についても保護の対象としたのが、今回の法改正で設けられた「公衆送信権」なのです。

 第2に、改正法では、実演家・レコード製作者について「送信可能化権」という権利が設けられました。

 この点、改正前のわが国の著作権法では、生実演等の場合を除いて、これらの者には権利が及ばないものとされていました。

 WIPO実演・レコード条約でも、著作者が有する許諾権と競合することを回避する必要があるという理由で、これらの者に対し「送信行為」自体については権利を認めませんでした。

 しかし、この条約は、これらの者の利益を保護するため、その前段階の「公衆に提示される状態に置く」行為に関し、これらの者の許諾権を認めるに至り、これにわが国の国内法である著作権法を適合させるために、今回の法改正で「送信可能化権」という権利が設けられたわけです。

 以上の説明の詳細については、1997年2月24日の著作権審議会マルチメディア小委員会審議経過報告を参照して下さい。

設問のページに戻る


Q.1998年1月1日施行の改正著作権法によるコンテンツ保護

1998年1月1日施行の改正著作権法によると、結局のところ、サイバースペースでは、どのようにコンテンツが保護されるのですか。


A.

改正著作権法では、他人の著作物を無断で自分のサーバへアップロードする行為は著作権法の「複製権」(同法21条)侵害に、ウェブ上でユーザーからのリクエストに応じてインタラクティブ送信する行為は「公衆送信権」(同法23条)侵害となります。

実演家やレコード製作者などにも「送信可能化権」という新しい権利が与えられましたので、レコードを無断でWebで流せば、レコード製作者などの「送信可能化権」侵害となります。

まず、著作権侵害の場合の民事責任について説明します。

侵害に対しては、差止請求、損害賠償請求などが可能です。

会社の従業員が勝手に会社のウェブサーバに著作権侵害コンテンツをアップロードするような行為を行った場合、会社自身も使用者責任に基づく損害賠償責任を負わされる可能性があります。また、会社はサーバ管理者としての責任を負わされる危険もあります。

次に、刑罰を科せられることもあります。

「著作者人格権、著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第30条第1項(第102条第1項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物又は実演等の複製を行つた者を除く。)」は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられます(119条)。

「法人の代表者(法人格を有しない社団又は財団の管理人を含む。)又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第119条から第122条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対し」ても、各本条の罰金刑を科せられます(124条1項)。

 


Q.1998年1月1日施行の改正著作権法による音楽の著作物の保護

他人の作った曲を自分で生演奏して録音したりMIDIファイルにしてインターネットで流す場合の権利処理方法について、教えて下さい。


A.

 音楽関係の著作権は非常に複雑ですが、まず最初にもっともシンプルなケースである設問の場合について説明します。

 音楽は「音楽の著作物」(著作権法10条1号2号)として著作権法により保護されています。

 インターネットで流す目的で自分ひとりで生演奏する行為が私的使用に該当するかどうかという問題もありますが、少なくとも、無断で他人が作曲した音楽をインターネット・サーバにアップロードする行為は複製権(同法21条)侵害に、インターネット上で流す行為は公衆送信権(同法23条)侵害にあたります。したがって、事前に著作権者である作詞家と作曲家に許諾を得る必要があります。

 その場合、許諾を申し込む相手方は誰になるのでしょうか、言い換えると、直接、作詞家と作曲家から許諾を得ることになるのでしょうか。

 第1に、音楽出版社は作詞家や作曲家との間で著作権譲渡契約を締結している場合が少なくありません。その場合、著作権は音楽出版社に移転していることになります。

 第2に、日本の音楽著作物の場合、日本音楽著作権協会(JASRAC: Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers)が、作詞家、作曲家、音楽出版社など音楽の著作権者から権利の委託を受け、その集中管理にあたっています。すなわち、著作権者との間で信託契約を締結し、著作権者が有する全部の著作権及び将来取得する全部の著作権を信託財産として預り、使用者から著作物使用料を徴収して著作権者に分配します。

 したがって、インターネット上で流す曲がJASRACの管理作品である場合には、JASRACから許諾を得る必要があります。

 このような業務を営むことは、著作権に関する仲介業務に関する法律によって規定されています。仲介業務をおこなうためには、文化庁長官の許可が必要です(同法2条)。現在のところ、音楽著作権管理の仲介業務は、事実上、JASRACによる一元管理体制となっています。

 この許可を受けて仲介業務をおこなう者は「仲介人」と呼ばれていますが、著作物使用料規程を定め文化庁長官の認可を受ける必要があります。規定を変更しようとする際も同様です。(同法3条)。

 この信託契約の内容として「著作権信託契約約款」が、使用者がJASRACに対して支払うべき著作物の使用料を定めるものとして「著作物使用料規程」が、JASRACが著作権を管理する著作物の使用に伴う対価として徴収した著作物使用料等の分配方法を定めることを目的として「著作物使用料分配規程」が、徴収した著作物使用料等を分配する際控除する管理手数料の算出方法を定めることを目的として「管理手数料規程」が、それぞれ定められています。この信託契約を締結した著作者は、自分の著作物であっても自由に許諾することができなくなることに注意して下さい。

 もっとも、この信託契約を締結するか否かは著作権者の自由ですので、この信託契約が締結されていない場合は、作詞家や作曲家から直接許諾を得る必要があります。管理作品か否かについては、JASRACに問い合わせをして判別してもらうことになります。

 なお、別のコンテンツ用に筆者が作成した 「図表」(ここをクリック) をご覧下さい。

 

設問のページに戻る

 


 

Q.1999年6月23日公布の著作権法改正

1999年6月23日に、わが国の改正著作権法が公布されたと聞きましたが、どのような点が変わったのですか。


A.

 この改正も、やはりWIPO著作権条約」等に対応することを目的とした改正です。

概要は次のとおりです。

I   新しい技術を活用した権利の実効性の確保

II  著作者等の権利の充実

 

I について

上記 I は、次の1及び2に分けることができます。

1 コピープロテクション等技術的保護手段の回避に係る規制 

2 権利管理情報の改変等の規制

文化庁の説明によりますと、この I 1は、ビデオソフト、音楽CD等の著作物等の無断複製等を防止するための技術的保護手段(コピープロテクション等)を回避する装置等の製造、頒布等を刑事罰によって規制しようとするものです。

また、 I 2は、著作物等に付されている権利管理情報(著作物や権利者等を特定する情報)を不正に除去、改変等する行為を規制しようとするものです。

 

II について

上記 II は、次の1ないし3に分けることができます。

1 著作物等の譲渡に関する権利(譲渡権)の新設 

2 上映権の拡大

3 演奏権に係る経過措置(附則第14条)の廃止

やはり文化庁の説明によりますと、この II 1は、条約等との整合性を図るため、著作物等一般について、複製物等の譲渡に関する権利(譲渡権)を認めるものです。一度適法に譲渡が行われた場合には、それ以降の譲渡行為には権利が及びません。これを「消尽」と呼んでいます。

次に II 2は、現在映画の著作物についてのみ認められている上映権(著作物を公に上映する権利)を美術・写真などすべての著作物に対して認めるというものです。 

さらに II 3は、適法に録音された音楽(CD、レコード等)の再生演奏について演奏権を制限している経過措置(附則第14条)を廃止するという内容です。 

 

設問のページに戻る

 


Q.WIPO著作権条約とベルヌ条約の関係

WIPO著作権条約とベルヌ条約とは、どういう関係にあるのか、教えて下さい。


A.

順番が前後しますが、WIPO とベルヌ条約について簡単に説明をしておきます。

WIPO というのは、World Intellectual Property Organization の略称であり、「世界知的所有権機関」という言葉に訳されています。

工業所有権と著作権の保護のための国際協力機構として1970年に設立され、1974年国連の専門機関となっているのです。

ベルヌ条約に関する1971年のパリ改正条約により、ベルヌ条約の国際事務局をWIPO(世界知的所有権機関)に置くことが決められています。

今日では、世界のほとんどの国は、著作権の保護に関するベルヌ条約に加盟しています。

このベルヌ条約に基づいて、各国の国内法が定められています。

ベルヌ条約が成立したのは1886年のことです。

この条約の正式名称は、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」として翻訳され、日本では明治32年に公布されています。

この名称からも理解が可能であるように、もともとこの条約の対象とされた著作物とは「文学的及び美術的著作物」でした。つまり、紙メディアが中心だったのです。

ところが、その後20世紀に入りますと、レコードだの映画だのラジオやテレビといった新しいメディアが続々と登場するようになります。

それにあわせるためにベルヌ条約は次々に改正されて行き、それに応じて各種の権利が付け加えられて複雑になっていったということです。

WIPO著作権条約は、ベルヌ条約の追加や修正という性格を有しています。

 

設問のページに戻る


Q.WIPO著作権条約

WIPO著作権条約は、「公衆への伝達権」以外に、主として、どのような条項を含んでいますか。


A.

1 コンピュータ・プログラムの著作権による保護

前述のとおり、WIPO著作権条約は、ベルヌ条約の追加や修正という性格を有していますが、コンピュータ・プログラムについて、ベルヌ条約第2条に規定する文学的著作物として保護されることを明らかにしました。

この点は、先進国で既に確立した考え方になっており、この条約以前に日本法でも明文化されています。

2 頒布権

WIPO著作権条約は、第6条で「頒布権」を認めました。

これは、著作者は、販売またはその他の所有権の移転により、その著作物の原作品または複製物を公衆に利用可能にすることを許諾する権利を専有するというものです。

なお、同条第2項により、締約国に頒布権に関し「消尽」を認める自由を認めています。

これは、「ファーストセールドクトリン」とも呼ばれています。

つまり、著作物の原作品またはその複製物につき、著作者の許諾を取得して最初に販売またはその他の所有権の移転が行われた後に、頒布権が消滅するという規定を、締約国が自由に認めることができるというものです。

3 コピープロテクション等技術的保護手段の回避

WIPO著作権条約第11条は、コピープロテクション等技術的保護手段の回避について規定し、「著作者(実演家又はレコード製作者)により許諾されておらず法によっても許容されていない行為をその著作物(実演又はレコード)について制限する、効果的な技術的手段であって、この条約(又はベルヌ条約)に基づく権利の行使に関して著作者(実演家又はレコード製作者)が利用するものの回避に対して、適切な法的保護及び効果的な法的救済を定めなければならない」としています。

これを受けて、文化庁の著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)は、平成10年2月20日、「中間まとめ(コピープロテクション等技術的保護手段の回避について)」という報告書を公表し(この条約第11条に関する上記の翻訳も、この報告書に基づいています)、これに対し、日弁連から「文化庁作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ (技術的保護・管理関係)中間まとめに関する意見書」(1998年5月)が提出されています。

その後、文化庁から「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書」(平成10年12月10日)が公表され、その検討を進めています。

設問のページに戻る


Q.マルCマーク

ホームページの一番下の部分に「(C) Copyright ??? LIMITED. 1997. All rights reserved.」という言葉が表示されているのを見かけることがありますが、これは何の意味なのでしょう。

 


A.正確には「サークルC」とか「著作権表示 (copyright notice)」と呼ばれています。

ベルヌ条約では無方式主義が採用されているので、日本の著作権法も無方式主義が採用されています。この無方式主義によれば、著作権は単に創作するだけで創作者が自動的に取得します。工業所有権と異なり何も手続は不要です。

したがって、この「サークルC」も、著作権を取得したり保護してもらうための要件ではありません。

では、どういった経緯で、このマークがつけられているのでしょうか。

ベルヌ条約では無方式主義が採用されているのに対し、かつて米国は著作権表示などの方式を採用していました。そこで、ベルヌ同盟国と方式主義の諸国とを結ぶ架け橋として、1952年にユネスコが中心となり万国著作権条約が制定されました。日本も1956年にこの条約を締結しています。この条約によって、万国著作権条約締結国であれば、方式主義の国であっても、著作物にマルCマークか「Copyright」の字句、著作権者名、最初の発行年が一体として表示されておれば、無方式主義を取る締結国の国民の著作物を保護することになったのです。

ところが、1989年3月1日、米国もベルヌ条約に加盟し、これに伴い国内法が改正されました。その結果、米国でも表示がなくして保護されることになっています。 米国関連のホームページに「サークルC」が付けられているものが多いのは、このような歴史的経緯の名残とも言うべきものです (米国の著作権法では現在も著作権表示は極めて限定された一定の役割を営んでいます)。

たしかに日本の著作権法では、著作物に著作者の氏名などが「著作者名として通常の方法により表示されている者」は著作者と推定されます(14条)。

しかし万国著作権条約の「「サークルC」は「著作者」ではなく「著作権者」を表示するものなので、「「サークルC」を付けてもこの推定が受けられるわけではありません。著作者は著作権を譲り渡すこともできますので、両者は同一人とは言えないからです。

では、現在では「著作権表示」(copyright notice)を付けておくことは無意味なのでしょうか。

現在、世界の主要な国は、ベルヌ条約及び万国著作権条約の加盟国ですが、なお現在でもベルヌ条約に加盟していない国もありえますので (但し現時点では双翅宅には見あたらないようです)、少なくとも理論上、それらの国に対する関係では、今でも意味があることになります。また、我が国や米国では法律的には意味はありませんが、実際上の観点からは、著作権の対象であることを明らかにして注意を促すという意味で、付けておくことが得策であると考えられます。

設問のページに戻る


Q.著作物の引用と転載

当社が作るインターネット上のホームページに、他の会社や人が作成した著作物を引用したり転載して利用する際には、どのような著作権法上の制限があるのでしょうか。


A.

1 著作権法上の原則と例外

 他人の著作物は、原則として、当該他人の許諾を得ることなく引用や転載をして利用することができません。これは現実空間の広告物などに限らず、ホームページを作る場合でも同様です。

 但し、著作権法上、主として次の場合は、例外的に当該他人の許諾を得ずに利用することができます。

 (1) 著作物の保護期間が終了している場合

 (2) 法令、通達、判決など

 (3) 「引用」(32条)その他、「著作権の制限」(30条以下)の各類型に該当する場合

 以下では、これらの内容について説明します。

 

2 著作物の保護期間が終了している場合

 その著作物の保護期間(著作権の存続期間)が終了している場合は、これを自由に利用できます。

 江戸時代の浮世絵や、明治時代に死亡した文豪の小説などが、その具体例です。

 保護期間は原則として 50 年間で

 もっとも、著作者が自然人なのか法人その他の団体なのかで50年の起算点が異なります(保護の開始時期は創作時であり、この起算点はあくまで50年に関する起算点であることに注意)。

 自然人の場合は死後50年であり(512項)、団体の場合は公表後(公表されなかった場合は創作後)50年です(531項)。

 以上の保護期間については、著作権法上、例外規定(51条から58条まで)が置かれていることが多いので注意が必要です。

 

3 法令、通達、判決などの利用

 これらは、公衆に対して周知徹底させるべきことを目的とするものですので、何人も自由に利用できる状態に置くために、著作権法は政策的に著作権法の保護を受けないものとしています13条)。

 具体的には、

(1) 憲法その他の法令、

(2) 国又は地方公共団体の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの、

(3) 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続きにより行なわれるもの、

(4) 以上のものの翻訳物及び編集物で、国又は地方公共団体の機関が作成するもの

が、これにあたります。

 したがって、以上に該当するものについては、自由に掲載したり引用したりすることができます。

 

4 官公PR資料等の転載

 前述の法令、通達、判決など以外の政府の刊行する「経済白書」などの官公PR資料等についても、国又は地方公共団体の機関が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができます(322項)。

 ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、転載することができません(同項但書)。

 まず、ここにいう著作物については公表が要件とされていますので、未公表のものは含まれません。

 また、本項により認められる利用、使用方法は、説明材料としての転載であるから、転載者がある程度の説明を付け加ている必要があります。

 第3に、許されるのは「刊行物に転載すること」で

 以上の条件を満たす限り、出所を明示すること(後述)を条件に(48条)、その官公庁の許可を得ることなく転載することができます

 なお、官公庁の発行する文書でも高度に学術的意義を有し、必ずしも一般に周知させることのみを意図しないものは、学術に関する著作物として著作権法の保護を受けることになるので、無断で転載できないものとされています(東京地判昭和52330日判時84525頁)。

 

5 上記以外の著作物の「引用」

(1) 著作権法上の規定

 321項は、「引用」に関して、「公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と規定しています

 本項にいう「引用」にあたる場合には、出所を明示することによって(48条)、著作者の同意がなくても他人の著作物を利用することができます。

 

(2) 引用することができるための要件

 「引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」ので、他人の著作物を自己の著作物中に持って来る必然性が認められなければなりません。

 したがって、この要件を欠いて、ある著作物をホームページ中に用いることや、絵画を表紙や挿し絵に用いることは、適法な「引用」にあたりません。

 適法な引用とされるためには、前記の点以外にも、次の条件が必要とされています(最判昭和55328日民集343244頁・判時96745頁)。

 (a) カギ括弧をつけるなど、自分の著作物と引用部分を区別すること(明瞭区別性)

 (b) 自分の著作物が主で、引用される著作物が従であること(主従関係)

 (c) 出所を明示すること(出所明示義務)

 出所を明示するには、一般に著作物の題号と著作者名の表示は最小限必要です。

 これらの要件を満たす「引用」は他の著作者の同意なくおこなうことができます。

 具体的には、ホームページに掲載する研究レポートを作成するために、自説と対立する他の学説を批判したり、自説の補強に他説を使用するような目的で、他の著作物を引用する場合がこれに該当します。

 

6 転 載

 前述のとおり、法令、通達、判決などは自由に転載が認められ、官公PR資料等の転載も、前記要件(第4項)を満たせば認められます。

 それ以外のものの転載について、著作権法39条は、時事問題に関する論説などの転載などに関して、「新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送することができる。但し、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りではない。」と規定しています

 この規定に該当するには、転載をおこなう著作物が、「新聞紙若しくは雑誌」など報道的目的のために利用されている必要があります。したがって、会社案内その他の営業用のホームページなどは報道目的を持っていないので、この例外の対象ではないことになります。

 以上の要件を満たさない転載については、著作権者の承諾が必要です。

 例えば、ある新聞記事や、ある歌謡曲の歌詞を、ホームページに転載する場合等がこれに該当し、著作者の承諾が必要です。

 

設問のページに戻る


Q.著作権と素材の所有権

ホームページに用いる素材である著作物の所有権をめぐる権利処理について、説明して下さい。


A.

(1) 問題の所在

 美術品を例に取りますと、著作権の客体という面と所有権等の物としての権利の客体という面とがあります。つまり、著作物であるとともに物としての側面が不可分の関係にあるのです。

 著作権の保護期間は原則として著作者の死後50年ですが、所有権はその物が存在する限りは基本的に永久に存続します。

 したがって、著作権の保護期間が終了しても、当該美術品の物としての所有権に基づく制限が残っています。

 古美術品を例に取りますと、既に著作物としての権利保護期間が切れているのが通常です。

 ところが、その古美術品自体は特定の者の所有物となっているので、著作物としての権利保護期間が切れている場合でも、所有者との関係ではどのように法的処理をすべきかという点が問題となります。

 

 (2) リーディングケース 

 − 最判昭和59年1月20日判時1107号127頁(顔真卿自書建中告身帖事件)

   この判例で最高裁は、「美術品の著作物の原作品は、それ自体有体物であるが、同時に無体物である美術の著作物を体現しているものというべきところ、所有権は有体物をその客体とする権利であるから、美術の著作物の原作品に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的支配権能であるにとどまり、無体物である美術の著作権自体直接排他的に支配する権能ではないと解するのが相当」であり、「著作権の消滅後は、著作権者の有していた著作物の複製権等が所有権者に復帰するのではなく、著作物は公有(パブリック・ドメイン)に帰し、何人も、著作者の人格的利益を害しない限り、自由にこれを利用しうることになるのである。」「第三者の複製物の出版が有体物としての原作品に対する排他的支配をおかすことなく行われたものであるときには、右複製物の出版は単に公有に帰した著作権の面を利用するにすぎないので、・・・原作品の所有者に、・・・経済上の不利益が生じたとしても、それは、第三者が著作物を自由に利用することができることによる事実上の結果である」に過ぎないと判示しました。

 

 (3) 所有権に基づく著作物の管理との関係

 

 古美術品が路上に無造作に置かれているということはあり得ないことですので、やはり特定の者によって管理され、建物の奥深く厳重に保管されているというのが通常です。

 そうしますと、管理者の許可を得なければ事実上撮影できないことになり、仮に撮影の許可を受ける場合にも、写真の使途や二次的利用形態、さらには報酬額が契約によって決められるということになります。

 その結果、当該美術品の写真を利用しようという者は、結局、所有者の意思に基づきこれを管理している者と協議をして、締結した契約の範囲で当該古美術品の写真を掲載せざるをえないことになるのです。

 このような意味で、著作権についてはクリアをする必要が無くとも、結局は、所有権に基づく問題を解決する必要があります。

 

 (4) まとめ


 他人が所有している古美術品は、著作物としての保護期間が経過しておれば、理論上は、自由にその写真を撮影してポスター等に使用でき、所有権を理由にこれを差止めることはできない。
 しかし、所有者がその古美術品を現に所有権に基づき管理している以上、事実上、その写真撮影をするためには所有者の承諾を得る必要があり、承諾を取得する際に、所有者から示される対価等の使用条件につき同意せざるを得ない。
 このような著作物の「物」としての特質は、前述のように、著作権譲渡などの際に、例えば写真の原板の所有権の帰属についての処理についても出現する。
 つまり、著作権と所有権とを理論上は峻別できても、現実問題としては複雑に絡まりあっていることを忘れてはならない。
 

 

設問のページに戻る


Q.コンテンツ被写体の権利処理

他人が写っている写真を、撮影したカメラマンの承諾だけ得てホームページに広告用コンテンツとして使用できますか。

被写体である他人がタレントの場合はどうなるのですか。一般人の場合と同様に考えるべきなのですか。


 

A.

 被写体であるその人の「肖像権」という人格権の侵害になるので許されず、これに違反して勝手に掲載した場合は、差止請求及び損害賠償請求を受けることになります。

 人格権侵害に対する損害賠償請求については、慰謝料という形で精神的損害の賠償のみが認められるというのが原則です。

 しかし、被写体がタレントの場合は事情が異なります。

 すなわち、タレントのように、その名前や肖像に経済的な価値が存在し、名前や肖像の使用によりロイヤリティなどを受け取ることができるので、無断でその名前や肖像が使われれば経済的な損失が発生すると考えられています。

 これを、パブリシティ権という言葉で呼んでいます。

 判例上は、

(1) マーク・レスター事件(東京地判昭和 51 年 6 月29日判時817号23頁)、

(2) スティーブ・マックィーン事件(東京地判昭和 55 年 11月10日判時981号19頁)、

(3) 王貞治肖像メダル事件(東京地決昭和53年10月2日判タ372号97頁)、

(4) おニャン子クラブ事件(東京地決昭和61年10月6日判時1212号142頁)

などで問題となりました。

 例えば、おニャン子クラブ事件では、裁判所は、「勝手におニャン子クラブに所属するタレントのプロマイドを販売する行為は、パブリシティ権の侵害になる」と判示しています。したがって、この場合には、経済的利益の損害賠償も認められることになるのです。

 説明を分かりやすくするために、敢えて誤解を恐れずに極めて大雑把な言い方をするならば、タレントのような有名人の場合は、一種の公的存在であると考えられますので、プライバシーや肖像権が保護される範囲は、一般人と比較すると通常は狭くなります。

 しかし、他方では、侵害が認定された場合、これに対し経済的利益の損害に関する賠償が認められる点では、一般人よりも保護が厚いという傾向があることになります。

 

設問のページに戻る


Q.漫画のキャラクター

かなり昔の連載漫画に登場するキャラクターを、私のホームページで使用したいと思います。

1 漫画のキャラクターは「キャラクター権」というもので保護されていると聞きましたが、本当でしょうか。

2 漫画のキャラクターの保護期間は決まっているのでしょうか。


A.

1 連載漫画に登場するキャラクターは、法的に保護されると解されていますが、「キャラクター権」という実定法上の権利や、解釈上認められた独自の権利が存在するのではなく、その実体としては、著作権により保護されると考えられてきました。

 この場合、連載された各回の漫画が著作物なのか、漫画に登場するキャラクター自身が著作物なのかについては必ずしも明らかではありませんでした。

 この点、最高裁第一小法廷平成9年7月17日判決は、次のように説いています。

「著作権法上の著作物は、『思想又は感情を創作的に表現したもの』(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。」

 つまり、登場するキャラクター自身ではなく、連載された各回の漫画が著作物であると判示しているのです。

 その理由につき、最高裁は、次のとおり説明しています。

「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。」

 次に、連載漫画の場合、後続の漫画は、先行する漫画と基本的な発想、設定のほか、主人公を始めとする主要な登場人物の容貌、性格等の特徴が同一であり、これに新たな筋書を付けて、新たな登場人物を追加するなどして作成されるというのが普通です。

 このようなケースでは、先行する漫画と後続する漫画とは、どのような関係に立つのでしょうか。

 先の最高裁判例は、「後続の漫画は、先行する漫画を翻案したものということができる」ことを理由に、先行する漫画を原著作物とする二次的著作物であるとしたうえ、「二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない」と解しています。

 その理由として最高裁判例が述べている点は、次のとおりです。

「二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法二条一項一一号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。」

2 このような区分は、漫画に登場するキャラクターに関する著作権の保護期間を考えるうえで意味を持ちます。

 すなわち、先の最高裁判例の原審である東京高裁平成4年5月14日判決(知裁集24巻2号385頁、判時1431号62頁)は、保護期間は一連の完結形態を有する漫画の発表時から起算すべきであるとしましたが、これに対し、この最高裁判例は、次のとおり述べています。

「著作権の保護期間は、各著作物ごとにそれぞれ独立して進行するものではあるが、後続の漫画に登場する人物が、先行する漫画に登場する人物と同一と認められる限り、当該登場人物については、最初に掲載された漫画の著作権の保護期間によるべきものであって、その保護期間が満了して著作権が消滅した場合には、後続の漫画の著作権の保護期間がいまだ満了していないとしても、もはや著作権を主張することができない」

 したがって、ご質問の場合には、上記の基準に照らし、著作権に関する保護期間が経過しているかどうかを判定することになります。

 なお、漫画のキャラクターが商標として保護されている場合は、著作権に関する保護期間が経過している場合であっても、商標法により保護されるので、注意が必要です。

 

 

設問のページに戻る


Q.作成したコンテンツの流用

当社は、契約書も交わさずにホームページの制作を受注し、引渡をして代金も受領しました。ところが、この度、発注元が、このホームページのコンテンツを使ってCD-ROMを作って販売することになったと言っています。

当社としては、何も言えないのでしょうか。


A.

著作権は、創作時に、最初に創作をした貴社に帰属します。

受発注の際、口頭で、どのようなやりとりがあったのかにもよりますが、契約書を交わしていないのであれば、一般的には著作権が相手方に移転していることになる場合は少ないものと思われます。

ただし、代金額が不相当に高額である場合など、合理的意思解釈として相手方に帰属したと言える場合も例外的には存在します。

この辺りの点については、残念ながら、詳しいお話をお聞きしなければ正確な判断ができないところですが、もし相手方に著作権が帰属したと言えない場合であれば、貴社は相手方に対し単に著作権の使用許諾をしているだけだということになります。

そこで次に、使用許諾の範囲が問題となります。

この点、受発注時に当事者間でインターネットのホームページ用に使うものとして指定していたのであれば、他の用途への「使い回し」は使用許諾の範囲外ということになることが多いでしょう。

このような場合に該当するかどうかについても、やはり詳しい話をお聞きしなければ正確な判断はできませんが、もし原則どおり、CDへの「使い回し」は使用許諾の範囲外ということになる場合は、貴社は相手方に対し、著作権侵害を理由に差止請求や損害賠償請求をすることになります。

現実の対処方法としては、まず相手方に警告書の内容証明を送付し、それでも相手方が応じない場合は、仮処分や訴訟によらざるを得ないこととなります。

 

設問のページに戻る


Q.著作権譲渡契約

著作権譲渡契約を締結する際に、譲り受ける側で注意すべき点を説明して下さい。


A.

1 譲渡の対象となる著作財産権の範囲

 61条2項は、「著作権を譲渡する契約において、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定しています。

 したがって、著作権譲渡の契約書を作成する場合には、これらの権利も譲渡の対象となる旨を、きっちりと明記しておく必要があります。

 

2 著作者人格権との関係

 著作者人格権については 59 条で譲渡ができないものとされています。

 しかし、例えば、コンテンツに関する著作財産権の譲渡を受けた者が、譲渡人から氏名表示権を主張された場合にも困惑せざるを得ない立場に置かれます。

 そこで、著作者人格権の譲渡に代わるものとして、著作者人格権を行使しないという不行使特約を結ぶことが通常です。

 もっとも、特定の事項に関する不行使特約であればともかく、包括的な不行使特約の効力については、必ずしも有効であるとする解釈が確立しているわけではないことに注意が必要です。

3 原 版

 譲り受けたコンテンツを他の用途に使用しようとした場合、原版が必要な場合が少なくありません。

 例えば、当該コンテンツをインターネット用に低解像度かつ色数少ない GIF 形式でもらっていたような場合、もし同一のコンテンツに写真が含まれているときには、印刷ポスター用に転用しようとすれば、写真の原本が必要となります。また、これを CD ロム用に転用しようとすれば、高解像度かつ色数の多いものでなければ役に立たないからです。

 したがって、原版の所有権の帰属や引渡などについても特約を入れておかなければならない場合があります。

4 その他

 以上の他にも、留意すべき点は少なくありませんので、ある程度重要な案件については、契約書の作成に際し、著作権法とコンピュータとの両面に精通した専門家に相談される必要があるでしょう。

 

設問のページに戻る


Q.著作物の意義

著作権法による保護の客体となる「著作物」とは何ですか。


A.別稿著作物 - 著作権法による保護の客体」 をご覧下さい。


Q.現実空間における著作権侵害訴訟

現実空間における著作権侵害訴訟について説明して下さい。


A.別稿著作権侵害訴訟の実務」 をご覧下さい。


Q.デジタル化権

よく「デジタル化権」という言葉を耳にします。著作権法上は「デジタル化権」は認められているのでしょうか。


A.

 「デジタル化権」という言葉は、第 1 に、著作物をデジタル化するかどうかを決定することができる権利という意味で用いられることがあります。著作者から「デジタル化権」を取得したなどという言い方で使われます。

 しかし、デジタル化は著作物の複製(場合によっては翻案)に該当しますので、原著作者の同意が必要であることはいうまでもありません。したがって、この意味であれば、当たり前のことですので、わざわざ「デジタル化権」という言葉を使用する意味に乏しいということになりそうです。

 また、単に上記の意味における「デジタル化権」を取得したなどと言ってみても、果たしてCDロム化をして販売するという権利を取得したのか、それともウェブに掲載することができるという権利を取得したのか、それは著作権の譲渡なのか、それとも単なる使用許諾なのか、といった肝腎の内容が明らかになるわけではありません。したがって、このように概念の外延が不明確である以上、もしこの言葉を法律概念として用いるべきであるというのであれば、反対せざるを得ません。

 ところが、この「デジタル化権」という言葉は、実は別の意味で使用されることのほうが多いのです。

 つまり、デジタル化には手間や費用を要しますので、レコード製作者の著作隣接権(96条以下)と同様に、デジタ著作物をデジタル化した者に何らかの独自の権利が発生するとして、この権利を「デジタル化権」という言葉で呼ぶ人がいるのです。

 2条1項6号では「レコードに固定されている音を最初に固定した者」を「レコード製作者」と定義して、音を最初に固定した者には著作隣接権による保護が付与されています。また、情報をデジタル化するということは、その情報を簡単且つ多様に利用できるようにするという意味で非常に経済的価値が高い行為ですし、デジタル化する際には多大の労力やノウハウが必要となります。このように考えますと、音を最初に固定した者がレコード製作者として保護されることとのバランスからして、一概にデジタル化した者に全く保護を与えないということには疑問が残るというのです。

 しかし、このような、デジタル化した者の権利という意味での「デジタル化権」が認められるかどうかについては、現行の著作権法には、12条の2に該当する場合を除き規定がありませんので、現時点では法律解釈にゆだねられており、東大の中山先生をはじめ否定説が多数説です。

 否定説は、例えば書画の類に掛け軸なんかの平仄を付けた者には独自の権利が認められるわけではなく、デジタル化したのは掛け軸なんかの平仄を付けたのと同じですので、そこに新たな権利が発生すると考えるのはおかしいと考えざるを得ないというのです。

 筆者としても、この否定説がいうように、現行著作権法の解釈としては、やはりこれを著作権法上の権利として認めることには無理があるように思われます。

 もっとも、例えば浮世絵のように著作権の保護期間が切れている著作物に関し、せっかく苦労して画像処理ソフトを使用して高度な技術に基づき大量にデジタル化してホームページにアップしたにもかかわらず、これを他人が勝手にダウンロードしてCDロムにして販売した場合に、如何なる悪質な「ただ乗り」のケースでも一切保護されないかどうかについては、なお疑問が残ります。つまり、著作権法以外の法律で保護することができないのかについては、今後の検討課題とせざるを得ません。

そこで、少なくとも立法論として検討する必要があるということで、平成7年2月公表の著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループによる著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ検討経過報告−マルチメディアに係る制度上の問題について−では、

「[A]著作物等の情報をデジタル方式により初めて電子媒体に固定した者に対し,その固定された情報を,営利を目的として,公衆に頒布するために複製し,頒布し,又は送信により公衆に提供することについて,著作隣接権を与えることとする。」案や

「[B]創作性を有せず著作物として保護されないデータベースの製作者に対し,当該 データベースに含まれる情報の相当程度のまとまりを,営利を目的として,公衆に頒布するために複製し,頒布し,又は送信により公衆に提供することについて,著作隣接権を与えることとする。」

という案が検討されました。

 これに対し、

「[A]の対応については,レコード製作者の場合と違って影響が極めて大きいこと,将来的には技術の発展に伴い情報のデジタル化は誰もが容易にできるようになると考えられること,デジタル化一般について保護すべき準創作的行為が存在するとはいえないことなどの理由から反対する意見がある一方,権利の内容を商業的なデッドコピーの作成と利用に関するものに限定すれば社会通念上問題は生じないとして,著作権法又は他の何らかの法制による導入を支持する意見があった。」という状態であり、また、「現行法上創作性のあるデータベースが著作物として保護されることは明確であり,現在普及・流通しているデータベースの多くは創作性を備えているものと考えられるが,情報の収集や分析・加工などのデータベース作成過程の自動化が進んでいること,今後,国際的なネットワークを利用したデータベースの提供サービスがますます普及していくと予想されることから,少なくとも[B]のように創作性のないデータベースに限定した対応の可能性については,国際的な検討状況に留意しつつ,更に検討する必要があるとの指摘があった。」とするに止っています。

少なくとも現時点ではこのような立法もなされず、保護の方策が確立していない以上、デジタル化を担当するクリエーターとしては、納入すべきデジタル・コンテンツにつき、契約対象外の用途への流用を禁止するなどの契約条項による自衛策が求められることになります。

 


Q.CDのレンタルをめぐる著作権処理

電子ネットワーク関係の質問でなくて恐縮ですが、レコードやCDのレンタルをめぐる著作権処理について教えて下さい。


A.

 日本で最初のレコードレンタル店は、1980年(昭和55年)6月に東京都の三鷹市に出現しましたが、その後、レンタル店は日本中に広がりました。

 このレコードレンタル店をめぐって著作権法との関係で議論を呼び、複数のレコード会社が、翌1981年(昭和56年)10月、東京地裁に対し、レンタルを受けたユーザーの大半がコピーをしていることを理由に複製権侵害にあたるとして、レンタル店を相手どって差止請求を提起しました。

 このような流れの中で、1983年(昭和58年)には「商業用レコードの公衆への貸与に関する著作者等の権利に関する暫定措置法」が制定されました。さらに、1984年(昭和59年)5月には著作権法が改正され著作者等の「貸与権」が創設されるに至り、立法的な決着をみたのです。改正著作権法は1985年(昭和60年)1月から施行されました。

 他方、通産省の指導もあり、1984年(昭和59年)4月、レコードレンタル業界を代表する団体として日本レコードレンタル商業組合が設立されました。

 改正著作権法によると、著作権者には貸与権が認められるとともに、レコード製作者と実演家には、レコード発売後1年間につき貸与権が、その後49年間は報酬請求権が認められています。

 レンタル店は、JASRAC、(社)日本レコード協会、(社)日本芸能実演家団体協議会の著作権者団体の許諾を開業前に得たうえ、利用許諾契約を締結するという方法で運用されています。

 (社)日本レコード協会と日本芸能実演家団体協議会とは、この組合経由で契約が締結されていますが、JASRACについては各レンタル店と直接契約を締結しています。

 JASRACの「商業用レコードを公衆に貸与する場合の著作物の使用料」に関する著作物使用料規定は、1984年(昭和59年)6月1日に認可を受けており、基本的には、「(1)商業用レコードを公衆に貸与する場合の著作物の使用料は、レコード1枚(本)1回の貸与」につき定額が定められていますが、レンタル店については「年間契約を締結し、月額使用料を取り決める場合の使用料は、(1)の使用料額、当該事業者の月間のレコードの貸与回数等使用状況を参酌して定める。」とされ(著作物使用料規程第11節)、当該レンタル店の月間の貸出し回数によって、1から10までのランクに分けられ月額使用料が定められています。

 なお、1994年(平成6年)8月には、コンパクトディスクの普及に伴い、この組合の名称は日本コンパクトディスクレンタル商業組合へと変更されました。

 

設問のページに戻る


home.gif (1354 バイト)

(C) copyright Hisamichi Okamura, 1998, All Rights Reserved.