1 複製が簡単なデジタルデータ

 

変な夢を見た。

マトロックスに照らされた暗く広大なサイバースペースの海を、ロボットに追いかけ回されるという夢だ。

うなされて目が覚めて、悪夢の原因を探ってみた。

今年(1998年)の11日から改正著作権法が施行になった。これが原因だ。

実は今回の改正は、インターネットをはじめとする電子ネットワークへの対応を目的とした改正である。

デジタル著作物の最大の特色の複製や改変を簡単に行なうことができるという点が、その背景になっているようだ。

複製といえば、一昔前までは手書きに頼らざるを得なかった。

そこでは大変な労力が必要だった。たとえば、モナリザなどの名画を筆写しようとすれば、原画に近づくチャンスを得ることすら困難である。さらに書き写す側にもそれなりの才能が必要とされていた。

その後、写真やフォトコピーが発明されると、原本(オリジナル)によく似た複製物を比較的容易に作ることができるようになった。

それでもコピーは所詮コピーでしかない。写真やコピーが原本と全く同じものでないことは誰が見ても分かる。

そこには越えることができない一線が引かれていた。

ところがデジタル著作物の場合は事情が異なる。コンピュータの画面上でマウスを使ってドラッグしたりセーブすれば簡単にコピーができてしまうからだ。

しかも、コピーしたプログラムは、元のプログラムと全く同一の働きをする。この場合、いくらコピーしてもデータの内容は少しも劣化せず、コピー元と完全に同一の内容なのである。ビデオにダビングを重ねると画面に霧がかかって鑑賞に堪えないのとはわけが違うのだ。

もちろん大量にコピーしても手間が掛からないだけでなく、費用も掛からないことも重要なポイントだ。現在では、デジカメで撮影された写真はそのままでパソコンに取り込まれ、グラフィックデザインはMacなどを使ったデジタルデータとして創作されていく。どちらにしても最初から紙媒体などは必要がない。

このように、デジタル著作物の領域では、何がオリジナルなのか、物理的に区別したり確定することさえナンセンスになっているのである。

 しかも、電子ネットワークを使用すれば、このような不正コピーが大量に加速される可能性は十分ある。インターネットのようなグローバルなオープンネットワークであれば、なおさらであろう。遙か昔、親鸞や空海は写経のために生死を賭して遠く中国へと大海原を渡らなければならなかったが、現代では、自分のパソコンの前に座って目の前にあるInternetブラウザーの画面をコピーするかセーブすれば、太平洋のかなたの国から発信されているコンテンツであっても、簡単かつ安価で複製することができるのだ。

 

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