1-4 わが国におけるインターネットに関する行政上の指導は(岡村)

 
Q わが国の官公庁が、「インターネットサーフデイ」という方法で、インターネットに関連して、行政上の指導をしていると聞きました。どのような内容のものなのでしょうか。また、行政手続法所定の行政指導との関係は、どのようになるのでしょうか。
 
A 官公庁がインターネットを介して電子商取引サイトを見て回り、所管の法令を遵守しているか否かを点検するという方法です。違反の事実が判明した場合には、電子メールを使って警告等が通知され、一定期間経過後にフォローアップの目的で再点検する場合があります。行政手続法2条6号所定の行政指導に該当するか否かはケースバイケースです。
 
【 解説 】
 
インターネットサーフデイの意味
 
 インターネットサーフデイとは、所管の法令を遵守しているか否かを点検する目的で、民間事業者の開設している電子商取引サイトを、官公庁がインターネットを介して閲覧して回るという方法によって調査・確認するという手法です。
 その結果として発見された違反サイトに対しては、電子メールを使って警告や啓発が行われ、さらに一定期間を置いた後、やはりネットを介した再調査や、再警告メール等のフォローアップが行われるのが通常です。
 
通商産業省のインターネットサーフデイ
 
 この方法を日本で最初に採用したのは通商産業省(現在の経済産業省)でした。
 すなわち、1998年を第1回として、インターネット通信販売サイトが、訪問販売法(現在の特定商取引法)8条所定の通信販売に関する広告表示義務を遵守しているか否かを点検し、違反サイトに対して警告メールを送信したうえ、一定期間経過後にフォローアップ調査を行い、改善が行われていないサイトに対して再警告メールを送信するという方法が採用されてきました。
 その結果、違反サイトが数多く発見されたこともあり、その後も毎年1回の割合で実施され、表示義務以外に、通信販売に係る誇大広告、特定継続的役務提供、連鎖販売取引へと点検対象の範囲が拡大されています。
 なお第3回(2000年実施)以降は、米国連邦取引委員会の呼びかけの下に、世界の諸国の期間と連携して不正な消費者取引を一斉チェックする「インターナショナル・インターネットサーフデイ」の一環として実施されるようになりました。
 
証券取引等監視委員会のインターネットサーフデイ
 
 通商産業省以外にも、同年から証券取引等監視委員会が同様の方法を導入しています。これは、証券監督者国際機構(IOSCO)の法務執行及び情報交換に関するワーキング・パーティに所属する18ヶ国、21に及ぶ証券規制当局などの公的機関が、証券取引に関する不正行為の実態把握を行うために、2000年に国際的連携の下で一斉にインターネットサーフデイを実施した際、その一環として行われたものです。具体的には、各国が任意に選定した検索エンジンに、任意に選定した言葉を入力して検索し、検索されたサイトを対象に実態把握するという方法によって実施され、わが国の場合は、証券取引法で禁止されている不正取引行為(157条)、風説の流布等(158条)の疑いの有無が点検の対象とされています。
 
公正取引委員会および国土交通省のインターネットサーフデイ
 
 公正取引委員会も同年、ダイエット効果を掲げる健康食品のインターネット通信販売サイトを対象に、また翌2001年には衣料品の通信販売に関し、無作為抽出したサイトを対象に、不当景品類及び不当表示防止法との関連で、適正な価格表示及び原産国表示の観点から、インターネットサーフデイを行っています。
 さらに国土交通省は、旅行業法所定の第1 種、第2 種及び第3 種旅行業に係る広告表示、誇大広告につき、また無登録事業者の広告の有無につき、無作為抽出したサイトの点検を、同年から開始しています。
 これらにおいても、違反サイトが多数発見されるに至っています。
 
インターネットサーフデイと行政指導
 
 こうした電子メールによる指導は、内容次第では、行政手続法2条6号所定の行政指導の定義に該当する場合があり、その場合には、同法第4章の行政指導に関する諸規定(32条ないし36条)が適用されることになります。
 ところで、電子商取引において消費者がトラブルに巻き込まれるケースの増大を背景として、以上のとおり、主としてインターネット上における消費者取引の適正化及び消費者利益の保護、事業者・消費者に対するインターネット取引に係るルールの啓発を目的として、インターネットサーフデイを定期的に実施する官公庁は、拡大の一途をたどっており、今後こうした傾向は、さらに加速するものと思われます。しかも電子商取引サイトはグローバルな性格を有していますので、1999年12月にOECD理事会で採択された「電子商取引に関する消費者保護ガイドライン」を踏まえ、国際的連携の下でインターナショナル・インターネットサーフデイとして行われるという方式が定着しつつあります。
 こうした手法に対しては、ネット上での監視を強めるものとして否定的に考える意見もあります。しかしもともとウェブページは一般に公開されていますので、いつでも誰でも見ることができる性格のものであり、また電子メールでの啓発や警告という方法は、実社会における警告等と比較しても簡単に実行できるという性質を有しています。
 したがって、インターネットの特性を利用したインターネットサーフデイは、利便性が良く実効性が高い、新しい時代の点検方法として、今後は他の官公庁や自治体においても次第に普及していくものと思われます。むしろ今後は、消費者保護等の見地から、明らかに違法なサイト名を監督官庁のサイト上で公開して消費者の注意を喚起する等のシステム導入を、さらに検討する必要があります。