2 コンピュータ犯罪

1980年代までは、「コンピュータ犯罪」(computer crime)という言葉が使用されることが一般的であった。

すなわち、1986年にOECDは報告書「コンピュータ犯罪−立法政策の分析」を公表し、その前後の時期には多くの先進国でコンピュータ犯罪の対策立法が成立し、わが国でも1987年にコンピュータ犯罪等に関する刑法の一部改正が成立している(内容は後述)。

コンピュータ犯罪について、警察庁では「コンピュータシステムの機能を阻害し、又はこれを不正に使用する犯罪」と定義している(1990年版『警察白書』92頁)。なお欧州評議会も「コンピュータ犯罪専門家会合」を設置している。

これらの時代には、インターネットは未だ学術ネットワークにとどまっており、銀行等の閉鎖的な業務用ネットワークや一部のパソコン通信を除けば、現在のような電子ネットワークは発展途上の段階にすぎなかった。そうした背景もあり、刑法一部改正ではネットワークに正面から対応した規定は設けられなかった。

しかし、前記OECD報告書においては「コンピュータ犯罪」を5類型に区分し、そのひとつとして「不正アクセス」という類型が取り上げられており、そこにはネットワーク犯罪はコンピュータ犯罪の一類型として捉えられていることが示されている。

こうした捉え方の延長線上にあるものとして、わが国でも1996年4月に公表された警察庁の情報システム安全対策研究会「情報システムの安全対策に関する中間報告書」においても、「コンピュータ犯罪」のひとつとして「ネットワーク上の不正行為」が取り上げられているが、要するに、この段階では「ネットワーク」は、中心的存在として意識されていなかった。

 

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