「著作権侵害訴訟の実務」  岡村 久道


V 著作権法に基づく保護の対象 − 著作物性

 

 まず、侵害されたとするものが「著作物」でなければ著作権侵害が成立する筈もない。

 何が著作権法による保護の客体である「著作物」であるのかについては、2条1項1号が規定している。

 この規定によれば、著作物とは、(1) 「思想又は感情」を (2) 「創作的」に (3) 「表現」したものであって、(4) 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を指す。

 この定義中の、(1) は単なる事実やデータを、(2) は他人の作品の単なる模倣を、(3) はアイデアを、また (4) は工業製品等を、それぞれ著作権法の保護対象から除外する機能を有している。(*2)

 具体的に何が著作物に該当するのかについては、著作権法は 10 条の 1 号から 9 号まで著作物の類型を例示している。

 しかし、どの類型の著作物に該当するかについて訴訟の場で特定する必要はないが、例えば言語か楽曲か映画かなど、類型毎に適用されるべき条項が異なることがあるので注意を要する。

 著作物性に関する詳細の説明 (*3)は、本紙面の制約上、別の機会に譲らざるを得ない。

 

 

W 著作権の原告への帰属

 

 著作物性が肯定される場合、原告は、著作権の自己への帰属を立証する必要がある。自らが著作権者でなければ当事者適格を欠くことになるからである(ただし、訴訟法にいう当事者適格という意味ではなく、あくまで請求原因としての権利取得原因につき主張・立証を欠くという意味である)。

 この点、特許の場合には、【表3】に記載したとおり、方式主義を前提として出願及び登録制度や公示制度が用意されているので、その立証は比較的容易である。権利の帰属については、移転や専用実施権設定を含めて登録原簿の謄本又は写しを裁判所に提出すれば足りるし、権利の内容についても特許公報や包袋書類を提出すればその特定を行うことができるからである。

 これに対し、著作権の場合、我が国が加盟するベルヌ条約において無方式主義が採用されているので、日本法においても、登録その他の手続きや特定の方式を履践することなく、単に創作のみにより当然に権利が原始的に発生することになり(2条及び51条1項)、他方で公示制度も原則的に存在していない。

 

 その結果、著作権侵害訴訟では、被告が争わない場合は別として、原告は「自ら創作した」(原始取得)とか「第三者が創作した著作物の著作権を譲り受けた」(承継取得)等、自己への著作権帰属を基礎づける事実を自らいちいち立証しなければならないことになる。

 その際、相続による取得であれば戸除籍謄本を提出すれば足るし、譲渡であれば契約書が残っていることが通常であるから、承継取得の立証は比較的容易である。

 もっとも、著作者人格権は一身専属性を有するがゆえに譲渡できず (59条)、著作財産権についても譲渡の際の留保推定条項 (61条2項) が存在するので注意を要する。

 これに対し、原始取得については、創作行為はアトリエや書斎など閉鎖空間で行われることが多い上に、仮に原作品が原稿用紙やフロッピーに残っていたとしても、それが直ちに自分が創作者であるという事実の裏付けとはならないので、その立証は一般に困難である。そこで、立証の困難性緩和を目的として14条で著作者の推定規定が置かれている。

 ちなみに、無方式主義が採用されている結果、創作の対象が著作権法により保護されるべき「著作物」に該当するか否か及び保護されるべき範囲如何についても、極論すれば判決が下されるまで曖昧なままであるということにもなりかねない。(*4)

 以上のような意味における立証の重さという点で、特許をはじめとする工業所有権侵害訴訟の場合とは質的に異なっている。

 この点、著作権登録制度 (75条以下) を利用すれば、権利の移転等の立証は一定限度軽減されるが、もとより権利の発生や移転の要件ではないし、特許と同様に登録に公信力は認められていない。

 誰が著作者なのかという点を被告が否認して争った結果、原告が著作権者であることを裁判所が認めなかった主要な事例として、・・・・

(1) 原告が企画して資料収集に努め作成につき詳細な指示をして請負人(画家)にパノラマ地図を作らせたことを理由に同地図の著作権が原告に帰属していると主張し、被告が同請負人に類似の地図を作成させて被告の雑誌に掲載したとして著作権侵害訴訟を提起した事案で、著作者は原告ではなく前記請負人であるとした東京地判昭和39年12月26日下民集15巻12号3114頁(高速道路パノラマ地図事件)、

(2) 被告がレコードを製作・販売している軍歌「同期の桜」の楽曲は、自己の作った「神雷部隊の歌」の複製物であるとする原告の主張に対し、西条八十作詩、大村能章作曲の「戦友の唄」を元歌とするものであるとして原告の請求を棄却した東京地判昭和58年6月20日判時1083号143頁(同期の桜事件)、

(3) 童謡「チューリップ」の作詞をしたと主張するAの相続人からの請求につき、やはりこれを作詞したとするBの相続人その他の被告が作詞者がAであることを否認して争った結果、原告の著作者性が認められなかったチューリップ事件(最判平成4年1月16日速報102号1頁)などがある。


                           

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