Hisamichi Okamura 「Webコンテンツと知的財産 〜 著作権の概要と新しい流れについて 〜」
4 Webと著作権
4−1 はじめに
さて、そこで今日の本題である著作権とWebによる情報発信との関係についてお話を移したいと思います。
いうまでもなくインターネットは国境の壁を超えた存在です。
そこで、インターネットでの情報発信をめぐって紛争になった場合、どこの国の法律が適用されるのかという点が常に問題になって参ります。
しかし、今日では、世界のほとんどの国は、著作権の保護に関するベルヌ条約に加盟しています。このベルヌ条約に基づいて、各国の国内法が定められています。日本もベルヌ条約に加盟しており、日本の著作権法は、この条約に基づいて制定されています。
インターネットは国境を越えるグローバルな存在ですので、法律紛争が国際的になることが予想されます。
しかし、著作権法に限って言えば、このベルヌ条約のおかげで、どこの国の著作権法も、思うほどには大きな違いはないという特色があります。また、後ほど申しあげますように、著作権制度に関するベルヌ条約の改正につきましても、世界知的所有権機関が中心となって、グローバルな形で行っておりますので、この点でも、今後、より世界共通になって行くという傾向にあります。
その中でも、現在の課題として中心となって議論されておりますのは、デジタル著作物と電子ネットワークの問題です。
(画面を「デジタル著作物の特徴」へ移動)
使い古された言葉ですが、デジタル著作物は、この画面のような特徴を持っております。データを劣化させずに複製(コピー)・改変が容易であるという意味は、技術的のみならず経済的つまり費用を掛けずに大量のコピーなどが可能であるという意味も含んでいます。
多数者間でネットワークを使った送受信が容易であることは、リアルタイムなデジタル情報の流通が可能になるという意味や、ノンパッケージでの著作物の流通が可能になるというプラス面を持ちますが、他方では、電子ネットワークにより大量のコピーなどが加速されるという側面も持っています。さらに、マルチメディアという言葉に代表されるように文章、グラフィックス、音声など各種の情報が統合されて存在することが可能になったということも指摘できると思われます。この点を理由に、大量の著作権使用許諾を処理するためのシステム構築の必要性が指摘されています。
以上のとおり、どちらにせよ、デジタル及びネットワークの存在は、情報というか著作物の存在形式を質的に変化させると考えることができます。
4−2 著作物とは何か
(画面を「著作物とは(著作権法2条1項1号)」へ移動)
ところで、そもそも著作権法による保護の対象とされる著作物にはどんな種類があるのかという古典的な点について、先に説明いたします。社団法人著作権情報センターのサイトに「著作物にはどんな種類がある?」というコンテンツがありますので、まず、これをご覧頂きたいと思います。
Web上のコンテンツには、文章、写真、絵といったパーツが数多く含まれており、すべて原則的には著作物にあたるということをご理解願えると思います。
もっとも、何が著作権法による保護の客体である「著作物」であるのかについては、理論的に言いますと、もう少し難しい定義になります。著作権法の2条1項1号が規定しています。この規定を分析すると、「著作物」とは、
(1)「思想又は感情」を
(2)「創作的」に
(3)「表現」したものであって、
(4)「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」
という4つの要件に分類することができます。
(1)は単なる事実やデータを、
(2)は他人の作品の単なる模倣を、
(3)はアイデアを、
また(4)は工業製品等を、
それぞれ著作権法の保護対象から除外する機能を有していると考えられています。しかし(4)については、さほど高度の芸術性や学術性等は要求されておらず、したがって、あまり大きな意味を持ちません。著作権法の本をひもとけば、小さなお子さんが描いた絵であっても著作物として保護されるけれども、ただ経済的価値がないので事実上問題にならないだけだなどという乱暴なことが書いてあるくらいです。
これに対し、(3)の「表現したもの」という要件は大切です。
この要件から、著作権法は「表現」を保護するものであって「アイデア」を保護するものではないという結論が導かれることになります。これに対し「アイデア」は特許法や実用新案法で保護されます。このような考え方を「表現・アイデア2分法」といい、著作権法の古典的な原則であるとされています。
前述のとおり、現在ではコンピュータ・プログラムは著作権法で保護されています。つまり著作物の一種とされていることになります。しかし、先程の考え方から、同じ目的のプログラムを作っても、それはアイデアの問題だから、ソースプログラムが違えば、そのアイデアに関する特許権が成立しておればそれを侵害することはあっても、表現が違う以上、原則として著作権侵害にはならないということになるわけです。つまり、例えば見本のホームページにあるアクセスカウンターについて、誰か他人が作ったプログラムを無断でデッドコピーして借用しているのであれば著作権侵害になることは明らかです。これに対し、自分でプログラムを独自に書いたのであれば、いくらアイデアを真似しようと著作権侵害にはなりません。
4−3 著作権を取得するためには手続は不要
(画面を「著作権の発生」へ移動)
次に、著作権は、その著作物を創作した人が自動的に取得します。特許などと違って、何も手続は必要ありません。これを「無方式主義」と呼んでいます。
ベルヌ条約では無方式主義が採用されているので、日本の著作権法も無方式主義が採用されているのです。
ホームページの一番下の部分に「© Copyright ??? LIMITED. 1997. All rights reserved.」という言葉が表示されていることは少なくないと思います。
このマルCマークは正確には「サークルC」とか「著作権表示」と呼ばれていますが、この「サークルC」も、著作権を取得したり保護してもらうための要件ではありません。ベルヌ条約では無方式主義が採用されているのに対し、かつて米国は著作権表示などの方式を採用していました。そこで、ベルヌ同盟国と方式主義の諸国とを結ぶ架け橋として、1952年にユネスコが中心となり万国著作権条約が制定されました。日本も1956年にこの条約を締結しています。この条約によって、万国著作権条約締結国であれば、方式主義の国であっても、著作物にマルCマークか「Copyright」の字句、著作権者名、最初の発行年が一体として表示されておれば、無方式主義を取る締結国の国民の著作物を保護することになったのです。
なお、1989年3月1日、米国もベルヌ条約に加盟し、これに伴い国内法が改正された結果、米国でも表示がなくして保護されることになっています。アメリカのホームページに「サークルC」が付けられているものが多いのは、このような歴史的経緯の名残とも言うべきものです。
日本でも、意味が分からないまま、他のホームページでやっているので自分も真似をしようということで一種のファッションになっているようです。もっとも、JISにもSIFTJISにも「サークルC」マークのフォントはありません。そこで、日本では代わりにcマークを付けることが一般的です。アメリカのサイトでマルCマークが付けられているものを見ても文字化けしてしまう国があることがわかったためか、アメリカでもマルCマークの代わりにCに( )を付けて代用しているのは皮肉なものということができるでしょう(もっともこのような表示で足るかどうかについては議論があります)。
それでは、現在では「著作権表示」(copyright notice)を付けておくことは無意味なのでしょうか。
現在、世界の主要な国は、ベルヌ条約及び万国著作権条約の加盟国ですが、なお現在でもベルヌ条約に加盟していない国もありますので、少なくともそれらの国に対する関係では、今でも意味があることになります。また、我が国や米国では法律的には意味はありませんが、実際上の観点からは、著作権の対象であることを明らかにする意味で、付けておくことが得策であると考えられます。
なぜなら、この表示によって、公表時期が何時であるのか、著作権者は誰であるのかがクリアになるからであり、万一、不幸にして訴訟になった場合でも、立証の点で少しでも無用な労力を省くことができるからです。また、デジタル画像を例にとって考えると、「著作権表示」が付けられている物を大っぴらにコピーして使用することは、それが付けられていない場合と比較して良心が咎める度合いは強いと言えましょう。
さらに、技術的にこれが可能な人であっても、夜中に一人で「著作権表示」を消し去るためにマウスを使っていれば、まともな人なら一層良心が咎めて、自己嫌悪に陥ってもおかしくないはずです。
さらには、インターネットの場合には、「サークルC」を付けていないと、フリーソフトとかフリーデータであると見られてしまうという特殊な慣行があるように思われます。このような慣行が裁判所で承認されるかどうかについては不明ですが、このような慣行の結果としてトラブルにならないためにも、やはり「サークルC」を付けておくほうが賢明であるということです。