新しい民事訴訟法について

〜 文 書 提 出 命 令 を 中 心 と し て 〜


岡村・堀・中道法律事務所

弁護士  堀   寛

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目   次

 

T 改正の目的について

U 改正のポイントについて

V 文書提出命令について

W 当事者照会制度について


T 改正の目的について

 今回の民事訴訟法改正は、社会経済の変化や発展等に伴い民事紛争が複雑化・多様化している状況に鑑み、民事訴訟に関する手続を現在の社会の要請にかなう適切なものとするとともに、民事訴訟を国民に利用しやすく、わかりやすいものとし、それにより適切かつ迅速な裁判の実現を図ることを目的としている。

 


U 改正のポイントについて

 1 形式面

 法文を現代語化し、また、条文の配列も手続の流れに沿ったものとした。

 2 技術面

 訴状、上訴状、判決書、訴え変更申立書、独立当事者参加申立書、補助参加申出書、訴訟告知書、取下書(ただし、相手方の同意を要する場合)、支払督促、及びこれらの書類に代わる調書等のように名宛人への到達に伴い重要な法的効果が発生するものを除き、答弁書・準備書面・証拠申出書等の裁判所に提出する書面は、原則としてファクシミリ送信により提出することができることとし、さらに、最近の情報通信社会に適応して、OA機器の活用(電話会議システムによる争点整理手続・テレビ会議装置による証人尋問・支払督促手続(旧支払命令手続)におけるコンピューターシステムの活用等)が図られている。

 3 内容面

  A  争点整理手続の整備

 手続の基本である「口頭弁論」に加え、「準備的口頭弁論」、「弁論準備手続」及び「書面による準備手続」という3種類の手続を設けて、事案の性質、内容等に応じて適切な争点整理手続を選択し、早期に適切な争点等の整理を行うことができるようにした。

(1) 準備的口頭弁論

 争点及び証拠の整理を口頭弁論期日にラウンド・テーブル法廷を含む公開の法廷で行う方式の争点整理手続。

(2) 弁論準備手続

 法廷外の裁判官室で行う争点整理手続。

(3) 書面による準備手続

 当事者が遠隔地に居住している場合に、費用の点や期日の調整の困難等の問題を考慮し、準備書面の交換や電話会議システムの利用等によって、当事者の出頭なしに行う争点整理手続。

  B 証拠収集手続の拡充

 弊害が生じないように配慮しながら、訴訟に必要な証拠の収集を容易にして、当事者の争点等の整理に向けた十分な準備を可能にするため、文書提出命令の対象となる文書を拡充したほか、文書提出命令の手続を整備した。さらに、当事者が主張立証を準備するために必要な情報を直接相手方から取得することを可能にする当事者照会の手続を新設した。

 尚、公務文書についての取り扱いについては、情報公開制度の検討と並行して、総合的な検討を加えた上で、必要な措置を新法公布後2年(平成10年6月26日まで)を目途として講ずるものとされた。従って、公務文書については、それまでは従前の取扱いのままである。

  C 少額訴訟手続の新設

請求額が30万円以下の少額の金銭請求事件を訴額に見合った経済的負担で簡易、迅速に解決するための特別な訴訟手続を新設した。

 具体的には、原則として1期日の審理で、即日判決を言い渡す。判決では、当事者の資力も考えて支払の猶予等もできる。そして、手続は一審限りで、判決に対する異議を申し立てることはできるが、異議に対する判決に対して上訴することはできない。尚、一般に広く利用することできるようにするため各簡易裁判所あたり年間10回の利用に限られている。

    D 最高裁判所に対する上訴制度の整備

 最高裁判所に対する上告について、上告の理由を憲法違反と絶対的上告理由に限定し、一方で新たに上告受理制度を導入し、法令解釈に関する重要な事項を含まない事件については、決定で上告を受理しないことができるものとした。

 


V 文書提出命令について

  1 文書提出義務

  A 旧 法

(1) 原 則

 企業・私人が所持する文書については原則として提出義務はない。

(2) 例 外

(a) 引用文書(旧法312条1号)

 文書を所持する当事者が訴訟において引用した文書。

(b) 引渡・閲覧文書(同条2号)

 挙証者(ある事実を立証しようとする訴訟当事者)が、文書の所持者に対し引渡または閲覧請求権を有する文書。

(c) 利益文書(同条3号前段)

 挙証者の利益のために作成された文書。

例) 挙証者を受遺者とする遺言書、挙証者のためにする契約の契約書、代理委任状、領収書、身分証明書等。

(d) 法律関係文書(同条3号後段)

    挙証者と文書の所持者との間の法律関係につき作    成された文書。

例) 契約書、契約申込書、承諾書、契約締結の過程でやりとりされた手紙、家賃通帳、商業帳簿や判取帳、売買のさい授受された印鑑証明書、契約解除通知書、挙証者と所持者との間の紛争について作成された判決の正本等。

  B 新 法

 公害・環境・医療事故・薬害・製造物責任等のいわゆる現代型訴訟では、証拠が一方当事者に偏在しており、そのことが事案の真相解明を阻む要因となっていた。

 確かに、旧法下でも利益文書・法律関係文書の範囲を拡張することにより、当事者間の証拠についての実質的平等を図っていたが、解釈論としては限界があった。

 そこで、新法では、文書提出義務についても証人義務と同様の取り扱いを認めて、旧法における原則と例外を逆転させたものである。

(1) 原 則

 企業・私人が所持する文書については原則として提出義務がある(新法220条4号)。

(2) 例 外

(a) 文書の所持者またはその一定の近親者(配偶者、後見人・被後見人等)が刑事訴追・有罪判決を受けるおそれがある事項またはこれらの者の名誉を害すべき事項が記載されている文書(新法220条4号イ)

(b) 医師、弁護士等もしくはこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきもの、または、技術もしくは職業の秘密に関する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書(同号ロ)

(c) 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(自己使用文書)(同号ハ)

例) 担当者のメモ、日記帳、備忘録等

 尚、取締役会議事録、監査役会議事録、証券会社の注文伝票、賃金台帳等のように法令上作成が義務づけられている文書は自己使用文書には該当しない。また、上司宛報告書、稟議書、常務会議事録等の各種議事録、クレーム報告書、事故調査報告書等のように両者の中間的性格をもつ文書がある。

  2 文書特定手続の新設(新法221条)

 文書提出命令の申立時における文書の特定の困難を救済するため、文書の特定のための手続を新設した。

 旧法においては、文書提出命令を申し立てる際、申立人は、「文書の表示」(文書のタイトル・作成者・日付等)、「文書の趣旨」(文書の記載内容の概要)を明らかにして申し立てなければならなかった(旧法313条)。しかし、文書の作成・保管に関与していない当事者にとって、相手方や第三者が所持する文書の表示や文書の趣旨を明らかにすることは困難なことが多い。

 そこで、新法においては、この規定はそのまま踏襲しつつも、申立人において文書の表示または文書の趣旨を明らかにすることが著しく困難であるときは、申立ての時点では、これらの事項に代えて「文書の所持者がその申立てに係る文書を識別することができる事項」を明らかにすれば足りることとなった(新法222条1項前段)。この場合、申立人は裁判所に対し、文書の所持者が当該文書についての文書の表示または文書の趣旨を明らかにすることを求める申し出を行い、裁判所から文書の所持者に対し、文書の表示・文書の趣旨を明らかにすることを求めることができる(新法222条1項後段・2項)。

 この規定は、運用次第では、所持者が文書のリストを作成して提出するような制度にもなりうる可能性がある。ただし、文書の所持者が裁判所からの求めに応じない場合の制裁規定はおかれていない。

  3 一部提出命令の明記(新法223条1項)

 文書に取調べの必要がないと認められる部分がある場合や、提出義務が認められない部分がある場合には、その部分を除いて提出を命ずることができることを明文で規定した。これにより、裁判所としては、文書提出命令を出しやすくなることが考えられる。

  4 イン・カメラ審理手続の新設(新法223条3項)

 文書提出義務の存否を審理するための文書の提示の制度として、いわゆるイン・カメラ審理手続を新設した。

 文書提出を拒む事由があるかどうかを判断をするため必要があると認めるときには、これを裁判所に提示させることができる。この場合には、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。要するに、裁判官だけが、文書を見て判断することになる。

 しかし、証拠として提出されない文書の閲読により実質的な心証形成がされるのではないかという危惧感があり、慎重な運用が求められる。

 5 文書提出命令に違反した場合等の効果(新法224条)

 文書の所持者である当事者が文書提出命令に違反した場合等の効果を強化した。

 旧法では、当該文書に記載されている事実についての相手方の主張を真実と認めるにとどまっていた(旧法316条)。

 これに対し、新法は、それを一歩踏み込んで、「当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたとき」(同条2項)、「裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができ」(同条1項)、「相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる」(同条3項)ものとした。

 従って、当事者にとって、この制裁が敗訴に直接結びつく重大なものとなりかねないわけである。

 


W 当事者照会制度について

 この制度は、アメリカ法のディスカバリーにおける「質問書」を参考として新設されたものである。

 当事者は、訴訟の係属中、相手方に対し、主張または立証を準備するために必要な事項について、相当の期間を定めて、書面で回答するよう照会することができる(新法163条)。これに対し、照会を受けた相手方は、一定の照会除外事由が認められている場合(新法163条1号〜6号)を除き、回答する義務を負うが、具体的な制裁規定は定められていない。しかし、回答しないことについて、裁判所が弁論の全趣旨から心証を得ること、あるいは、新設された信義・誠実義務(新法2条)との関係で不利益な心証として働くことは考えられる。

                               

以 上