割賦販売を行った売主・担保権者の交通損害賠償責任

岡村・堀・中道法律事務所 弁護士 堀  寛

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Q1.当社は、今般独立する従業員に対し、当社所有の自動車を代金100万円、20回の割賦払いとし、代金完済まで自動車の所有権は当社に留保するという約定で売却しました。もし、代金完済前に元従業員が事故を起こした場合、当社も責任を負わなければならないのでしょうか。


A1

 ご質問の事例は、所有権留保付割賦販売により売り渡した自動車による事故について、売主が運行供用者責任を負うかという問題です。

 これにつきましては、売主に実質上何らの運行支配がなく、また、経済的利益の帰属がなく、単に販売代金の確保のために所有権を留保しているにすぎない場合には、運行供用者にはあたらず、賠償責任を負わないとするのが一般的な考え方です。

 例えば、最高裁昭和46年1月26日判決は、「所有権留保の特約を付して、自動車を代金月賦払いにより売り渡す者は、特段の事情のないかぎり販売代金債権の確保のためにだけ所有権を留保するにすぎないものと解すべきであり、該自動車を買主に引き渡し、その使用に委ねたものである以上、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者ではなく、したがって、自動車損害賠償保障法3条にいう『自己のために自動車を運行の用に供する者』にはあたらない」と判示しています。

 ただし、例外的に、売買当事者間に事業上の協力関係あるいは支配・従属関係が認められるように、売主・買主間に特別の人的関係があり自動車の引渡し後も売主の運行支配・運行利益が残っていると認められる場合には、売主も運行供用者として賠償責任を負うことが考えられます。

 したがいまして、ご質問の事例でも原則として責任を負うことはありませんが、売却後も先にあげたような特別の人的関係が認められる場合には、賠償責任を負うことが考えられます。

 

 

[参考−最高裁昭和46年1月26日判決]

 

「所有権留保の特約を付して、自動車を代金月賦払いにより売り渡す者は、特段の事情のないかぎり販売代金債権の確保のためにだけ所有権を留保するにずぎないものと解すべきであり、該自動車を買主に引き渡し、その使用に委ねたものである以上、自動車の使用についての支配権を有し、かつ、その使用により享受する利益が自己に帰属する者ではなく、したがつて、自動車損害賠償保障法三条にいう『自己のために自動車を運行の用に供する者』にはあたらないというべきである。」

 


Q2.当社の従業員が、当社が担保として預かっていた自動車を無断で運転中に事故を起こし、歩行者に重傷を負わせてしまいました。この場合、当社も責任を負わなければならないのでしょうか。


A2

 ご質問の事例は、金銭の貸主である会社が借主から担保として自動車を預かって保管中に従業員が起こした事故について会社が運行供用者責任を負うかという問題です。

 これにつきましては、担保権者は、一般的には担保の目的物である自動車について、運行支配も運行利益も有していないので、運行供用者責任を負わないとされています。しかしながら、担保として、現実に自動車を預かった者については、使用権の設定を受けたか否かにかかわらず、事実上自動車の運行を支配管理し得る地位にあることから、その支配管理下における自動車の運行については、保有者として責任を負うものとされています。

 例えば、最高裁昭和43年10月18日判決は、乙(上告人)の従業員Aが、乙が貸金の担保として預かった自動車を、無断使用中に起こした事故について、「上告人は、貸金の担保として本件自動車を預かったものであり、少なくとも事実上本件自動車の運行を支配管理し得る地位にあったものであるから、この支配管理下における自動車の運行については、自動車損害賠償保障法にいう保有者として、その責を負わなければならないものである旨および上告人の従業員である訴外Aによる本件加害車の無断使用は、上告人の管理上の過失によって可能になったものであるから、同訴外人による本件加害車の運行は、その主観においては私用のための無断運転ではあるが、客観的には上告人による運転支配可能な範囲に属し、上告人は右運行により起こった事故につき保有者としての賠償責任を免れない」と判示しました。

 一方、担保として自動車を引き渡した自動車の所有者は、特段の事情がないかぎり、その時点で運行支配を喪失し、運行供用者責任を負わないものと考えられます。

 したがいまして、ご質問の事例でも、特段の事情のないかぎり、現実に自動車を預かった以上、その支配管理下における自動車の運行については保有者としてその責任を負うことになります。

 

 

[参考−最高裁昭和43年10月18日判決]

「上告人は貸金の担保として本件自動車を預ったものであり、少なくとも事実上本件自動車の運行を支配管理し得る地位にあったものであるから、この支配管理下における自動車の運行については、自動車損害賠償保障法にいう保有者として、その責を負わなければならないものである旨および、上告人の従業員である訴外甲野太郎(仮名)による本件加害車の無断使用は、上告人の管理上の過失によって可能になったものであるから、同訴外人による本件加害車の運行は、その主観においては私用のための無断運転ではあるが、客観的には上告人による運転支配可能な範囲に属し、上告人は右運行により起こった事故につき保有者としての賠償責任を免れない旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯できる。そして、同法三条ただし書にいう「注意を怠らなかったこと」の主張立証責任は上告人にあるところ、上告人は原審において右の点については主張立証せず、従って原審の認定判断しないところであるからこの点についての所論は、適法の上告理由たり得ない。」

 

                                     以 上    


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法律問題は、事実関係や裁判所の事実認定の微妙な相違により、全く結論が異なることになる場合が多いというのが実状です。また、学説が対立する問題は多く、判例は常に変更される可能性があります。以上の結果、実際に紛争になっていたり、もしくはそうなる可能性がある事案等について責任ある判断をするには、必ず現実空間において法律専門家に相談を受けていただくことを要します。したがって、本ページの記載内容に関しては、あくまで参考として利用いただくものとし、当事務所及び当職は一切責任を負わないことを利用条件とします。


 

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