対物事故と慰謝料

岡村・堀・中道法律事務所 弁護士 堀  寛

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Q.対人事故の場合には、治療費や休業損害などと並んで、慰謝料が認められていますが、対物事故の場合にも、慰謝料の支払請求は認められるのでしょうか。


 1 原則−慰謝料請求否定

 交通事故による車両の破損の場合については、学説・判例ともに、慰謝料を否定するのが実務の大勢です。

 実際の判例としては、大阪地判昭和54710日(交民124983頁)東京高判平成4720日(交民254787頁)、東京地判平成6617日(交民273793頁)などでは、自動車が破損したことによる慰謝料請求を否定しています。

 その理由は、自動車は代替性のある物件であるから、財産上の損害が賠償されれば、精神的苦痛もこれによって除去されると考えられ、仮に財産上の損害のてん補によってもなお除去されない精神的苦痛を被る者があっても、それは通常生ずべき損害とはいえないというものです。

 また、神戸地判平成3528日(交民243606頁)では、路上に駐車中に、加害者に衝突されたクラッシックカー(ホンダS800オープン42年式)につき、日々丹念に手入れし、磨き上げていたとしても、その破損に対する慰謝料請求は認められないとしています。

 さらに、東京地判昭和4396日(交民13901頁)は、深夜車両が店舗に飛び込み商品を破損した場合につき、慰謝料を否定しています。

 

 2 例外−慰謝料請求を肯定した事例

 これに対し、慰謝料請求を肯定した判例として、

(1) 品評会でチャンピオンになったダックスフンドが死亡させられたケースに関する東京地判昭和401126日(判例時報42717頁)、

(2) アラブ系の雌の競走馬である当歳馬の交通事故死のケースで慰謝料30万円を認めた札幌地判昭和53327日(交民112453頁)、

(3) 写真店に早朝飛び込んだ自動車が、就寝中の店主の23メートル離れた地点にまで達したため、腰の抜けるような驚愕を感じ、店舗損壊のため営業も9日間休業した事案で、休業補償は認めなかったが4万円の慰謝料を認めたという新潟地裁長岡支判昭和47323日(交民52440頁)

などがあります。

 

 3 分 析

 以上のとおり、例外的に、物損に伴う慰謝料が認められるためには、被害者即ちその所有権者に取って特別の主観的精神的価値を有する場合などの特段の事情の存することが必要とされているように解されます。

 この点につき、東京地方裁判所の交通部の裁判官の見解では、物件損害の場合に慰謝料を請求するには、「目的物が被害者にとって特別の愛着をいだかせるものである場合や、加害行為が害意を伴うなど相手方に精神的打撃を与えるような仕方でなされた場合など、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情が存することが必要になる」(東京三弁護士会編「交通事故損害賠償額算定基準1989年版」)と考えられています。

 このような特段の事情のないようなケースでは、財産的損害の填補により物損に伴う精神的損害も慰謝されたと考えられ、さらに慰謝料を認められないとするのが一般的であるようです。

 よって、代替性に欠けることのない自動車が破損された場合には、原則として慰謝料が肯定されることはないのではないか、と考えられます。

  もっとも、前述の家屋に自動車が飛び込んだ事案で慰謝料が認められたケースでは、物損に伴う慰謝料という他に、居住者自身が事故による精神的打撃を受けていますので、その意味では、純粋に物損による慰謝料の問題とは異なる側面があると考えることもできます。

以 上

 

 


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法律問題は、事実関係や裁判所の事実認定の微妙な相違により、全く結論が異なることになる場合が多いというのが実状です。また、学説が対立する問題は多く、判例は常に変更される可能性があります。以上の結果、実際に紛争になっていたり、もしくはそうなる可能性がある事案等について責任ある判断をするには、必ず現実空間において法律専門家に相談を受けていただくことを要します。したがって、本ページの記載内容に関しては、あくまで参考として利用いただくものとし、当事務所及び当職は一切責任を負わないことを利用条件とします。


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