従業員が起こした事故と代表取締役個人の責任

岡村・堀・中道法律事務所 弁護士 堀  寛

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Q.当社の従業員が、業務中に当社所有車の運転を誤って事故を起こし、歩行者に重傷を負わせてしまいました。

 被害者から、従業員と当社に加えて、代表取締役である私個人にも責任があるとして賠償請求を受けています。

 この場合、私個人も責任を負わなければならないのでしょうか。


 御質問のような事故の場合、従業員は不法行為責任(民法709条)に基づき、会社は使用者責任(民法715条1項)あるいは運行供用者責任(自賠法3条)に基づき、それぞれ損害賠償責任を負うことになります。

 さらに、被害者は、あなた(代表取締役)個人に対しても損害賠償を請求してるということですが、これは、代表取締役個人の代理監督者責任(民法715条2項)に基づいて賠償義務が負うと主張するものと考えられます。

 ところで、ここにいう代理監督者とはどのような立場の人を指すのでしょうか。

 これについては、具体的には、工場長、現場監督、支店長、部・課長等のように、実際に使用者に代わって被用者の選任・監督のどちらか一方または双方を行う者を指すと考えられています(最高裁昭和42年5月30日判決)。

 そして、判例は、代理監督者について、「客観的に観察して、実際上現実に使用者に代わって事業を監督する地位にある者」をいうと定義しています(最高裁昭和35年4月14日判決)。

 すなわち、代表取締役が現実にあるいは具体的に被用者の選任・監督を担当していた場合にかぎり責任を負うものとし、単に代表取締役であるというだけでは代理監督者には該当しないものと考えられています。

 といいますのも、そもそも代理監督者とは、工場長とか現場監督等のように使用者に代わって事業を監督する者を対象とした規定であって、会社が使用者である場合には、代表取締役は使用者たる会社を代表する者であるとしても、必ずしも会社に代わって事業を監督する者となるとはかぎらないからです。

 したがいまして、代表取締役個人に対して代理監督者責任を問うためには、その代表取締役が現実に事業を監督する者であることを主張・立証する必要があります。

 次に、具体的に代理監督者への該当性の有無を判断するに際しては、現実の指揮監督関係に加えて、当該会社の規模・従業員数、業務内容等も重要な判断要素とされています。

 そして、判例に表れた事例では、経営規模が小さく実態は個人経営のような会社の場合には、ほとんどの事例で代表取締役個人が代理監督者責任を負わされているのが実情です(東京地裁昭和53年3月30日判決、横浜地裁昭和53年5月29日判決等)。

 つまり、小規模会社の場合には、自ら現実に事業を監督していた者として代表取締役・被用者間の指揮監督関係が認められやすく、代表取締役個人の代理監督者責任を認める傾向にありますので、特に注意する必要があります。

 尚、代表権のない取締役や工場長、現場監督等のような場合でも、自ら現実に事業の執行を監督していたものと認められるかぎり、代理監督者としての損害賠償責任が認められることがあります(横浜地裁昭和44年1月29日判決、浦和地裁昭和46年1月18日判決等)。

 以上のとおりですので、あなた(代表取締役)個人が責任を負わなければならない場合もあります。

以 上

 

 


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法律問題は、事実関係や裁判所の事実認定の微妙な相違により、全く結論が異なることになる場合が多いというのが実状です。また、学説が対立する問題は多く、判例は常に変更される可能性があります。以上の結果、実際に紛争になっていたり、もしくはそうなる可能性がある事案等について責任ある判断をするには、必ず現実空間において法律専門家に相談を受けていただくことを要します。したがって、本ページの記載内容に関しては、あくまで参考として利用いただくものとし、当事務所及び当職は一切責任を負わないことを利用条件とします。


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