ジャックス事件第一審判決

 

事件名 富山地裁 平成10(ワ)323 不正競争 民事訴訟事件
判決名 富山地判平成12(2000)年12月6日
掲載誌 最高裁サイト下級裁主要判決情報 判タ1047号297頁
評釈 岡村久道「ドメイン名紛争の法的解決(上)(下)−JACCS事件判決(富山地判平12・12・6)に寄せて−」(NBL2001年2月15日号(No.707)54頁、2001年2月01日号(No.706)14頁)
備 考 控訴審・名古屋高金沢支判平成13(2001)年9月10日

 

  

判     決

 

原       告      株式会社ジャックス
右代表者代表取締役      【A】
右訴訟代理人弁護士      北 村 晴 男
同              加 藤 信 之
同              越 谷 哲 成
右北村訴訟復代理人弁護士   佐 野 周 造
被 告      有限会社日本海パクト
右代表者代表取締役      【B】
右訴訟代理人弁護士      青 島 明 生


主     文


一 被告は、そのホームページによる営業活動に、「JACCS」の表示を使用してはならない。
二 被告は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成一〇年五月二六日受付の登録ドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用してはならない。
三 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

 

第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要

 本件は、インターネット上で「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名を使用し、かつ、開設するホームページにおいて「JACCS」の表示を用いて営業活動をする被告に対し、「JACCS」という営業表示を有する原告が、被告による右ドメイン名の使用及びホームページ上での「JACCS」の表示の使用は、不正競争行為(不正競争防止法二条一項一号、二号)に当たるとして、右ドメイン名の使用の差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止めを求めている事案である。

二 争いのない事実等

  1 当事者
 原告は、割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社であり、被告は、簡易組立トイレの販売及びリース等を事業とする有限会社である。
2 ドメイン名について
 ドメイン名とは、インターネットに接続しているコンピューターを認識する方法であり、IPアドレスという三二ビットで構成された数字列を利用しやすいようにアルファベット文字で表現したものである。インターネット利用者は、ドメイン名を入力することによって、特定のホームページ等に到達することができる。
 ドメイン名については、各国のネットワークインフォメーションセンターが一元的に割り当てを管理しており、国際的な一意性を保障するために先願主義の原則が採用されている。日本においては、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(以下「JPNIC」という。)がドメイン名の割り当てを管理しており、一般の企業に割り当てられるcoドメインについては、申請者が法人登録していること、申請ドメイン名が既存のドメイン名と一致しないこと及び原則として一組織一ドメインであることの条件を満たす場合に割り当てられ、完全な先願主義が行われている。この場合、ドメイン名と企業の商号との一致は要求されておらず、ドメイン名については申請者がそれぞれ自由に決定して申請し、JPNICが右基準を満たせばほとんどそのまま割り当てている。また、ドメイン名で用いることのできるのはA〜Zとa〜zの英字と0〜9の数字及び-(ハイフン)のみという制約がある。ドメイン名は、例えば、「http://www.abc.co.jp」のように表記され、この場合、「jp」の部分が第一レベルドメインであり、右例では日本を意味し、「co」の部分が第二レベルドメインであり、登録者の組織属性を示しており、右例では一般企業を意味し、「abc」の部分が第三レベルドメインであり、「http://www.」の部分は通信手段を示している(なお、本件では、第三レベルドメインをドメイン名と呼ぶ場合もある。)。
3 被告によるドメイン名の登録
 被告は、平成一〇年五月二六日、JPNICにより、「http://www.jaccs.co.jp」というドメイン名(以下「本件ドメイン名」という。)の割り当てを受け、右ドメイン名が登録された。
4 被告によるホームページの開設
(一) 被告は、平成一〇年九月ころ以降、別紙ホームページ画面(1)記載のホームページを開設した(甲二三の1)。右画面には、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、被告の扱う簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた。
(二) 被告は、その後、右ホームページの画面を別紙ホームページ画面(2)記載のとおりに変更し、「ようこそJACCSのホームページへ」中の「JACCS」の下に「ジェイエイシーシーエス」とふりがなを記載するなどした。
(三) 本件口頭弁論終結時における被告のホームページの画面は、別紙ホームページ画面(3)記載のとおりであり、画面上「JACCS」は記載されていない(弁論の全趣旨)。

三 原告の主張

1 本件ドメイン名の使用の差止め
(一) 原告は、「ジャックス」を原告の商号として昭和五一年から継続して使用しており、原告が発行するクレジットカードや原告従業員の名刺等にはすべて別紙商標1記載の商標(以下「本件商標」という。)を付している。また、全国ネットでテレビコマーシャルを流したり、新聞において広告すること等により、「JACCS」は、原告の営業表示として、全国的にかつ本来の需要者を超えて知られるようになっており、周知かつ著名となっている。
 (二) 不正競争防止法二条一項一号及び二号の「商品等表示」とは、商品の出所又は営業の表示の主体を示す表示を指すところ、ドメイン名は、本来的には、特定のコンピューターのアドレスを表すものではあるが、ドメイン名は無作為の文字集合ではなく、その登録者によって意図的に選択されたものであり、通常その者の名称等を反映したものであることはインターネット利用者にはよく知られたことであるから、事実上、登録者やその商品・役務を識別する機能も有している。
 そして、被告は、原告に対し、本件ドメイン名を法外な値段で譲渡又は賃貸し金銭的利益を獲得する目的で本件ドメイン名を取得したものであること(実際に被告は、原告に対し面談等を求め、執拗に書面を出している。)、被告は自らの営業に資するために、本件ドメイン名を利用しホームページを開設していると推測されること、及び本件訴訟提起前において、被告は、本件ドメイン名のもと、ホームページにおいて被告が販売する商品(携帯電話、簡易トイレ等)の宣伝をしており、現在においても被告のホームページのリンク先においては、靴等の宣伝がされていること等の諸点に鑑みれば、被告が本件ドメイン名のもとでホームページを開設していることは、本件ドメイン名を「商品等表示」として、「使用」していると解することができる。
   (三) 本件ドメイン名は、原告の営業表示「JACCS」を小文字にしたにすぎず、原告の営業表示と同一又は類似である。
 (四) 前記のとおり、ドメイン名は、特定のコンピューターのアドレスを表す機能を有するにとどまらないこと、「営業」とは、単に特定の商品やサービスの宣伝にとどまらず、企業自体の宣伝も含むところ、本件ドメイン名のもとでホームページにおいて「JACCS」と表示されていれば、インターネットの利用者はこれを原告又は原告関連企業が行っているものと誤認すること、及び実際に右ホームページにおけるリンク先では特定の商品等の宣伝がなされていることからすれば、被告が本件ドメイン名を使用し右ホームページを開設していることが、原告の営業と混同を生じさせると認められる。
 (五) よって、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法二条一項一号及び二号の不正競争行為に該当し、原告は、被告の右不正競争行為により営業上の利益を侵害されるおそれがあるから、同法三条一項に基づき、被告の本件ドメイン名の使用の差止めを求める。
2 被告のホームページ上における「JACCS」の表示の使用差止め
(一) 前記1(一)と同じ。
(二) 被告は、別紙ホームページ画面(1)記載の被告のホームページ上において、「JACCS」と同一又は類似の表示を使用し、被告の販売する携帯電話等の商品の宣伝を行っていた。
  被告は、後に、別紙ホームページ画面(2)のとおり、「JACCS」の表示の下に「ジェイエイシーシーエス」と記載した表示を使用するようになったが、この表示も、「JACCS」と同一又は類似することに変わりはない。
(三) よって、被告の右行為は、不正競争防止法二条一項一号及び二号の不正競争行為に該当する。
 現在の被告のホームページは、別紙ホームページ画面(3)のとおりであり、「JACCS」の表示は使用されていないが、今後被告がホームページにおいて再度「JACCS」の表示を使用する可能性があり、その場合には、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがある。
 したがって、同法三条一項に基づき、被告のホームページによる営業活動における「JACCS」の表示の使用の差止めを求める。

四 被告の主張

1 被告の本件ドメイン名の使用について
(一) ドメイン名は、本来的に、特定のコンピューターのアドレスを表すものであり、インターネット利用者は、これを見てホームページに到達するにすぎない。また、到達した先のホームページでは、たとえcoドメインであっても、営業的な内容もあれば公益的な内容や趣味的な内容もあり、千差万別で、coドメインだからといって営業の表示であるとはいえない。また、到達したホームページにおいて特定の商品・サービスが表示されている場合でも、ドメイン名は表示画面上のごく一部を占めるにすぎないアドレス等欄に小さく表示されているだけで、しかも、この欄は商品・サービス内容が表示されているページ画面とは離れて別構成となっている部分に表示されるにすぎないから、商品・サービス等の出所を示すものとして機能しているとはいえない。
(二) ドメイン名が、アドレス表示としての機能のみならず、事実上、登録者やその商品・サービスを識別する機能をも有する場合があるとしても、ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」となるかどうかについては、ドメイン名の使用形態やアクセスされるホームページの表示内容等から総合的に判断すべきである。
 本件においては、被告の現在のホームページの状況は別紙ホームページ画面(3)のとおりであり、このホームページには「JACCS」とは別個の識別標識が明瞭に表れており、ドメイン名の識別機能は注目されなくなっているし、右ホームページは、リンク先の他のホームページを表示しているだけであるから、「商品等表示」の「使用」とはならない。
2 被告のホームページにおける「JACCS」の表示の使用について
(一) 本件商標と別紙ホームページ画面(1)の「JACCS」の表示とでは、前者が緑色を基調とするのに対し、後者は赤・黄・青等多くの色を使用していることや、文字のレタリングが大きく異なることから、利用者が受ける印象・記憶は大きく異なる。また、別紙ホームページ画面(2)は、「ジェイエイシーシーエス」というルビがふられているから、「ジャックス」を連想することは一層あり得ない。
 したがって、被告のホームページにおける表示と本件商標との間に同一性・類似性はない。
(二) 被告の別紙ホームページ画面(2)のホームページにおいては、「JACCS」の表示の下に、リンク先が示されているだけであるから、被告の商品等表示として使用しているとはいえない。
3 権利濫用
 ドメイン名の登録については、完全な先願主義が採られており、ドメイン名に用いることのできる文字・記号にも制約があることから、インターネットを利用する企業は、右ルールの中で競ってドメイン名の申請をし、あるいは高額の解決金を支払うことにより示談解決をしている例も少なくない。このような中で、原告が、先願申請の努力をせず、自己の商号が著名であるとか商標登録しているというだけで、被告のドメイン名の使用を制限できるかのような主張をするのは、不当である。
 被告は、ホームページを複数の企業で共同運用しようと考え、約一〇社の賛同を得、「japan associated cozy cradle society」(企業家支援集団心地よいゆりかご)の略称の「jaccs」をドメイン名として申請し、登録を受けたものである。
 原告は、「jaccscard.co」ドメインを使用してインターネットでの活動を活発に行っており、本件ドメイン名を使用できなくても何ら不都合はない。

五 争点

1 本件ドメイン名の使用が、不正競争防止法二条一項一号及び二号の「商品等表示」の「使用」に当たるか否か。
2 同法二条一項二号のその他の要件に該当するか否か。
(一) 原告の営業表示の著名性
(二) 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性
3 同法二条一項一号のその他の要件に該当するか否か。
4 本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か。
5 ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否

第三 当裁判所の判断

一 争点1(本件ドメイン名の使用が不正競争防止法二条一項一号及び二号の「商品等表示」の「使用」に当たるか否か)について

1 ドメイン名は、争いのない事実等2のとおり、特定のホームページ等に到達するためコンピューターに入力する記号であり、登録申請者は、アルファベットや数字といった限られた範囲内の記号を選択して申請し、既に同一のドメイン名が存在しない限り、登録申請者のドメイン名として登録されるものであり、ドメイン名が、登録者の名称等登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていない。
 しかしながら、ドメイン名が、常に登録者と結びつきのない無意味な文字列である訳ではなく、むしろ、登録者は、ドメイン名で使える文字を組み合せて、可能な限り、自己の名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある言葉を示す文字列をドメイン名として登録している場合が多い(甲一、三二、三三、四九、五二)。そして、インターネットを利用する者においても、ドメイン名に使用できる文字列が限定されていることやドメイン名の登録につき先願制が採られていることなどから、ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが一般である。
 そして、このように、ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり、ドメイン名の使用が商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法二条一項一号、二号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。
2 そこで、本件で、被告による本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当たるか否かを検討するに、被告は、本件ドメイン名の登録を受けた後、別紙ホームページ画面(1)記載のホームページを開設し、右画面には、「ようこそJACCSのホームページへ」というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON KAISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレや携帯電話の販売広告がされていた(争いのない事実)。右ホームページの表示内容(リンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり、右ホームページの画面には大きく「JACCS」と表示されていて、ホームページの開設主体であることを示しており、ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにすぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。

二 争点2(不正競争防止法二条一項二号のその他の要件該当性)について

1 原告の営業表示の著名性
 証拠(甲五ないし一一、三一、四一ないし四七)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
  原告は、割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社であり、平成一〇年七月一日時点で、全国に一二四の支社・支店・営業所を有していた。かつての商号は「北日本信用販売株式会社」であったが、昭和五一年四月、「株式会社ジャックス」に商号変更したものである。「ジャックス」は、「JAPAN CONSUMERS CREDIT SERVICE」からとったもので、英文では「JACCS CO.,LTD.」と表記することとした。同じころ、本件商標を社名変更案内に表示したのを初めとして、現在に至るまで、原告の発行するクレジットカード、新聞広告・パンフレット・テレビコマーシャル及び原告従業員の名刺等には必ず本件商標を表示してきた。また、原告の発行するクレジットカードには「JACCS CARD」と表示されている。原告は、昭和五一年一一月に東京証券取引所二部市場へ上場し、昭和五三年九月には、同一部市場に指定替えとなった。また、同じころから現在に至るまで、全国ネットのテレビコマーシャルを放映し、一般消費者に対し、その営業の宣伝を行ってきた。右テレビコマーシャルにおいては、最後に、本件商標が表示されるとともに、「ジャックス」又は「ジャックスカード」という音声が流れるものであった。そして、本件商標は、「J」、「A」、「C」、「C」、「S」を図案化したものであるが、「JACCS」というアルファベットを示すものであることは一見してわかるものであり、これを「ジャックス」と称呼することも、一般消費者に認識されていた。原告は、本件商標につき、平成九年ころ、指定役務を「三六 債務の保証、金銭債権の取得及び譲渡、クレジットカード利用者に代わってする支払代金の精算、資金の貸付、割賦販売利用者に代わってする支払代金の精算、生命保険契約の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理、集金代行」として、商標登録を受けている。また、原告は、平成六年には、別紙商標2記載の登録商標につき、指定役務を「三五 広告用具の貸与、タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」、「三八 電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与」、「四二 電子計算機のプログラム設計・作成または保守、電子計算機の貸与」として、それぞれ商標登録を受けている。
 以上の事実によれば、遅くとも、被告が本件ドメイン名を使用した平成一〇年までには、「JACCS」という表示は、原告の営業表示として著名となっていたものと認められる。
2 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性
 本件ドメイン名は、「http://www.jaccs.co.jp」であるが、前記のとおり、「http://www.」の部分は通信手段を示し、「co.jp」は、当該ドメインがJPNIC管理のものでかつ登録者が会社であることを示すにすぎず、多くのドメイン名に共通のものであり、商品又は役務の出所を表示する機能はなく要部とはいえず、本件ドメイン名と原告の営業表示が同一又は類似であるかどうかの判断は、要部である第三レベルドメインである「jaccs」を対象として行うべきである。
 そこで、「JACCS」と「jaccs」とを対比すると、アルファベットが大文字か小文字かの違いがあるほかは、同一である。そして、実際上、小文字のアルファベットで構成されているドメイン名がほとんどであること(甲二八ないし三〇、三四、三五)に照らせば、大文字か小文字かの外観の違いは重要ではないというべきである。
 したがって、原告の営業表示と本件ドメイン名は類似する。
 3 以上より、本件における、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法二条一項二号の不正競争行為に該当する。

三 争点4(本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か)について

1 本件では、被告による本件ドメイン名の登録及び使用をめぐり、次のような事情が認められる。
(一) 被告は、平成一〇年七月中旬ころ、原告代表者及び原告の取締役らに対し、被告が本件ドメイン名を登録した旨及び「御社が将来的に損失を被る恐れ有りとお考えの節は、譲渡又はレンタルそのものに応じる形もあろうかと思います。」などと記載した書面を送付したほか、原告が本件訴訟を提起した平成一〇年一一月二七日までの間に、「ドメインの重大性にお気付きの役員もおられることを思い、端株を持つ者として心強くも感じられます。」などと記載した書面や、「御社にとりましては、ネット上は不自然でみっともない形になっておる」、「このままの状態を放置すれば、世間の物笑いの種とも成りかねません。」などと記載した書面を送付しており(甲一四ないし二七〈枝番号を含む〉)、原告に対し、本件ドメイン名の対価として金銭を要求していたものと認められる(甲四八)。
(二) 被告は、約一〇社の賛同を得て企業家支援集団を結成し、これを「japan associated cozy cradle society」と名付け、その略称として本件ドメイン名を登録した旨主張しているが、「cozy cradle」(ここちよい揺りかご)と他の単語との結びつきはあまりに唐突であって、右名称自体が不自然である上、被告の開設した当初のホームページの内容(争いのない事実等4(一)、別紙ホームページ画面(1))では、右名称の企業家支援集団が当該ホームページを開設している趣旨は全く表れておらず、むしろ、「JACCS」のみが強調されたかたちになっている。また、弁論の全趣旨によれば、被告がホームページの内容を変更して「JACCS」の表示の下に「ジェイエイシーシーエス」のふりがなを記載したり(争いのない事実等4(二)、別紙ホームページ画面(2))、「JACCS」が右名称の企業家支援集団の略称を表すことを記載した(争いのない事実等4(三)、別紙ホームページ画面(3))のは、本件訴訟提起後であることが認められる。このようなことからすれば、被告による本件ドメイン名の登録は、偶然ではなく、原告の営業表示である「JACCS」と同一であることを認識しつつ行われたと認められる。そして、本件ドメイン名の登録後間もなく、前記(一)のとおり、原告に対し、本件ドメイン名に関して金銭を要求していることからすれば、被告は、当初より、原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録したものと推認せざるを得ない。
2 本件における右のような事情及び被告が本件ドメイン名の使用が不正競争行為に当たることを争っていることに照らせば、被告は、本件ドメイン名の使用を今後も継続するおそれがあるというべきであり、原告の営業表示と混同されたり、原告の営業表示の価値が毀損される可能性があり、したがって、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
 よって、被告による本件ドメイン名の使用を差し止めるべきである。
3 権利濫用について
 被告は、完全な先願主義が採られているドメイン名の登録について先願申請の努力をしなかった原告が、自己の営業表示の著名性等を理由に、先願登録した被告の本件ドメイン名の使用を差し止めるのは権利の濫用である旨主張する。
 この点、前記(争いのない事実等2)のとおり、JPNIC管理のcoドメインについては完全な先願主義が採られているが、そのことと、本件ドメイン名の使用が不正競争防止法に触れ裁判所により差し止められるか否かとは別個の問題であり、JPNICにおいても、ドメイン名の使用の差止めを命ずる確定判決等の提出があればドメイン名の登録を取り消すことができるとしていること(甲四、「ドメイン名登録等に関する規則」三〇条(3))をも考慮すると、ドメイン名の登録が先願主義であることをもって、ドメイン名の使用の差止め請求を阻止することはできないというべきである。そして、原告が先願申請の努力をしていないという点についても、本件における被告のドメイン名の登録・使用をめぐる事情(前記1認定の事情)に照らせば、右の点は権利濫用と評価される事情とは言えない。
 また、被告は、原告は「jaccscard.co」ドメインを使用してインターネットでの活動をしており、本件ドメイン名を使用できなくても不都合はない旨主張するが、本件で、原告が被告に対し本件ドメイン名の使用の差止めを求めるのは、原告が本件ドメイン名を使用できないことを理由とするものではなく、被告による本件ドメイン名の使用が原告に対する不正競争行為に当たること(原告の「JACCS」という営業表示の価値の毀損等)を理由とするものであるから、原告が「jaccscard.co」ドメインを登録・使用しているからといって、本件ドメイン名の使用差止めを求める必要性がないということにはならない。
 以上によれば、本件ドメイン名の使用差止めを求めることは権利濫用には当たらない。

四 争点5(ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否)について

1 前記のとおり、原告の営業表示「JACCS」は著名であり、右営業表示と、争いのない事実等4(一)(別紙ホームページ画面(1))のホームページに表れた「JACCS」の表示とは同一であると認められる。なお、被告は、被告のホームページ上の表示と本件商標とを対比して種々主張しているが、対比すべきは原告の「JACCS」という営業表示(本件商標の字体や色に限定されない。)であるから、右主張は採用できない。
 そして、ホームページ上の営業活動に「JACCS」の表示を使用することが「商品等表示」の「使用」に当たることは明らかであるから、被告が右ホームページ上で「JACCS」の表示を使用した行為は、不正競争防止法二条一項二号の不正競争行為に該当する。
2 前記三1記載の事情に照らせば、被告が、ホームページにおける営業活動に「JACCS」の表示を再び使用するおそれもあるから、前記三2と同様に、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると認められる。
 したがって、被告がホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することを差し止めるべきである。
五 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

   富山地方裁判所民事部

裁判長裁判官   徳  永  幸  藏

          裁判官   源     孝  治

          裁判官   冨  上  智  子

 

(別紙) ホームページ画面

(略)

 

 注 意

本判決文は、研究の便宜を目的として掲載しているものにすぎず、如何なる意味でも内容の正確性や真性を保証するものではありません。誤字・脱字等、不正確な部分が含まれている可能性がありますので、引用等の際は、必ず原本を参照して下さい。(岡村久道)

 

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